拒絶
「……もう、私に話しかけないでくれますかっ?」
「えっ…………?」
予想外の一言に、俺は声を失った。
どういうことなのか。
それを華音に聞きたいとは思ったが、上手く頭が働かない。あまりのショックで、思考停止状態に陥ったのだろうか。
なんにせよ、俺は彼女がどういう意図で言ったのかが分からない。
働かない頭を無理に使って、俺は華音に聞く。
「なんで……」
だが、その返答が帰ってくる前に、帰りの挨拶が行われた。
席替えは終礼の途中に行われたため、残るは挨拶のみとなっていたのだ。
「「「さようなら」」」
皆が起立して挨拶をし、解散となる。
華音は解散と同時に逃げるように教室を出ていき、結局どういうことだったのかわからず仕舞いになってしまった。
俺は自分の席に崩れ落ちるように座り直し、暫し呆然とする。
時間が経っていくうちに、だんだんと状況が鮮明に理解できるようになってきた。
……ああ、俺は今度こそ完全にフラれたのか。
はっきりしている頭で過去を振り返れば、それも納得だ。
あんなに付き纏うような行動や、毎日のように彼女にグイグイと迫って、迷惑と感じないはずがない。
華音は、当然の反応をしているのだ。
この「華音」という呼び名だって、彼女に許可もとることなく勝手に呼び始めた。
常識的に考えて、「気持ち悪い」とまで思われても仕方のないことだろう。
「恋は盲目」とは、よく言ったものだ。
実際、恋をして相手に振り向いてもらうためなら、どんな行動でもとってしまう。今回の俺の例がそうだ。
自分の行動を振り返ることもせず、ただひたすらに突き進むだけ。
恋に関しても、それ以外に関しても、ひたすらに突き進むことは大切な時だってある。
でも、自重することも忘れたはならないのだろう。それを身をもって体感した。
初めての失恋だ。
自分の口から乾いた笑いが出ていることに気付くが、だからどうした。
俺は、とんだばか野郎だな。
「―――裕樹っ!」
不意に、そんな声が聞こえた。
ボーっとしていたために気付かなかったが、俺の前で陽が心配そうな顔で俺のことを見つめているのが目に入った。
「……陽か。どうしてここに?」
「陽がなんか変って、僕が裕樹のクラスの人に呼ばれたからね」
ふと周りを見渡すと、そこには心配そうな顔のクラスメイトがいた。
どうやら、心配をかけてしまったらしい。
「どうしちゃったの裕樹? いつもみたいな元気がないよ?」
「まあ、それもそうだろうな……俺、華音に、いや、湊さんに思いっきり拒絶された」
「えっ……」
驚きからか、目を丸くする陽。
そんな陽に、俺はフラれた経緯を話す。
改めて、自分の行動がひどく気持ち悪く思える。
何が完璧な人間だ。完璧どころか、人様に迷惑をかける害悪な人間だろうが。
俺が陽に出来事を話し終えれば、陽は「複雑だなぁ……」と呟いた。何が複雑なのだろう。聞く気も今は起きないが。
「……取り敢えず、帰ろ」
「……悪いな、気遣わせて」
「ううん、こんなの気を遣ううちに入らないから、気にしないで」
「……さんきゅ」
俺達は教室を出て、いつも通り帰り道へと向かう。
その後は、ずっと俺達の間に会話はなく、どこか気まずさを感じる時間となってしまっていた。
いつもの分かれ道にたどり着き、このまま陽と別れることになるんだろうなと考えていると、陽の方から話しかけてきた。
「……今日は、早く寝るといいと思うよ。変に考え込んで寝不足になるよりは、しっかり寝て頭を休めた方がすっきりするだろうし。このことについては、また明日にでも考えればいいんじゃない?」
「本当に何から何まで、ありがとうな」
「だから良いって。それじゃあ、また明日、学校でね」
「おう」
こうして陽の優しさを感じるだけで、心の中がどんどんと穏やかになっていく。
陽に相談してよかった。
少し気が楽になりながら俺は家に戻り、陽の言った通りそれからしばらくして就寝した。
いつもの何時間も前だったのだが、問題なく眠りに落ちることができた。
現実逃避したかったのもあると思うし、単純に精神的な疲労がたまってしまったのかもしれない。
だが、幸いにも悪夢を見たりすることもなく、穏やかに眠りに落ちれた。
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