会長との関係
「……これだけ、ですか?」
「これだけです」
教室を出て事務室に来たのだが、そこに積まれていたのは一人でも十分に持てそうな量の紙の束。しかもご丁寧に、飛んでいかないように軽く縛ってあるため、本当に一人で十分な量だ。
……いや、見た目だけでは重いのかわからない。
もしかしたらこれだけの量でも十分に重いのかもしれないぞ。
確か、A4の紙百枚で大体500g。
今回の広報プリントは生徒一人一人に届けることになっていて、うちの学校は各学年に三クラス、一クラスに四十人のため、3×3×40の計360枚だ。
ってことで500を3.6倍すればいいので……1.8㎏か。
ちょっと重めだが、人を頼る程ではないのではないだろうか……?
いくら会長が運動音痴でも、筋力は他の女子とさほど変わらないと思うし、2㎏弱なら持てるのでは……?
「……会長。これくらいなら会長一人で持てたのでは……?」
思わず聞いてしまう。
いや、男なんだから文句言わずに持てよってのはそうだけどさ、気になるじゃん。
まあ理由が何であれ、持つつもりではいるのだが。
「はい、持てますよ」
「え」
会長は微笑みながら、溜めもなしにそう言った。
流石にそれは予想外。
「じゃ、じゃあ何で俺呼んだんですか」
「さっきも言いましたよ。竹崎君に会いたくなっただけです」
「でもそれは冗談だって……」
「あの場ではしょうがないでしょう。だって、そうでもしなければ竹崎君が殺られてたましたし」
「……ってことは、本当に会長は俺に会うために……?」
「……どうだと思いますか?」
少し小悪魔チックな笑みを浮かべる会長の姿は、いつもの凛とした雰囲気の彼女が見せる「美しさ」とは違い、年相応の「可愛さ」が感じられ、不覚にもドキッとしてしまった。
まさか、本当に会長は俺に会いに……?
その時、クスッと笑う声が聞こえた。
「……なんで笑ってるんですか会長」
「いや、ごめんね。照れてる様子の裕樹が可愛くて……」
「ちょっ!」
俺は少し焦りながら周りを見渡す。
「大丈夫だよ。周りに誰もいないのは確認済み。誰かに聞かれる心配はしなくていいからね」
「心臓に悪いからいきなりは止めてくれ、柚姉ぇ。マジで焦ったじゃん」
俺達二人は先程までとまるっきり違う口調となり、もっと砕けた雰囲気となる。
「いつも言ってるだろ、ちゃんと二人っきりになったのが確認できるまでは元の口調になるなって」
「えー、私は確認済みだったし、それくらいは良いでしょー」
「いきなり口調変えられるこっちの身にもなってみろ。……それに、ここまだ人通る可能性とか高いから、せめて生徒会室にしてくれ」
「うぅ……わかったよ。裕樹のケチ」
「なんとでも言え。柚姉ぇの素がこんなだと知られないならケチと言われようが構わん。ほら、さっさと生徒会室行くぞ」
俺は
そうすればしぶしぶといった様子で俺の後を柚姉ぇが付いてきた。……つか、やっぱこのプリントの束、絶対柚姉ぇ一人で持てたな。
さて、ここで俺と柚姉ぇの関係について話しておこうか。
俺と柚姉ぇはもともと親同士の仲が良く、家も近かったため、小さい頃から一緒だった。
そのため俺は「柚姉ぇ」と言って彼女のことを慕い、柚姉ぇは俺のことを弟のように扱った。これが、俺と柚姉ぇが仲が良い理由な。
ちなみにこのことは陽も知っていて、小学校の時などは三人で一緒に遊ぶことが多かった記憶がある。……懐かし。あの頃から陽は既に女装してたっけ。
そんでもって、この高校では先輩後輩という関係だけでいる。
小さい頃から仲が良いどころか、高校で初めて一緒になった設定だ。
なんでそんなことをしているのかといえば、柚姉ぇが生徒会長になってしまったからだ。
柚姉ぇは高校では先程の素の口調とは違い、常に敬語で丁寧な、まさに理想の生徒会長といった雰囲気でいたために、生徒会長になってしまった。本人曰く、気付いたらなってたとか。どういうことよそれ。
だが、そんな優等生っぽいところが買われて生徒会長になってしまったがために、素の柚姉ぇでいることが出来なくなってしまったのだ。
そして、柚姉ぇは俺が近くに居るとなぜかだらける。いや、ほんと何でよ。
だから、俺は高校に入ると同時に柚姉ぇに、「二人きりの時以外は素の口調に戻るな」と約束した。うっ……あの時の柚姉ぇのめちゃくちゃ悲しそうな表情を思い出すだけで、胸が痛むぞ……。
……とまあ、俺と柚姉ぇの関係はこんな感じだ。
二人きりになった時に、偽りの自分でいることへのストレス発散なのか、とても生徒会長とは思えないだらけっぷりになるので正直めんどくさいとは思ってるけど、それも柚姉ぇの威厳を保つためと考えれば安いもんだ……安い……安いかな?
そんなことを考えていれば、生徒会室にはすぐに着いた。
「はぁ……息が苦しいよぉ……敬語って面倒くさいねぇ……」
生徒会室に着くなり、柚姉ぇは高そうなソファーに倒れこんだ。基本、生徒会室で俺と二人きりの時はこうだ。流石に他の人がいれば柚姉ぇもやらない。というか、やったらこれまでの努力が水の泡だし。
「裕樹……頑張ってる私を褒めて……」
「はいはい偉い偉い」
「いい子いい子して……」
「子供か」
俺は生徒会室の机の上にプリントの束を置き、だらだらしてる柚姉ぇを見ながら溜め息を吐く。
流石に二人きりだからって言っても、もう少し落ち着いてほしいな。
丁度その時知チャイムが鳴り始めたので、俺は柚姉ぇを叩き起こして教室へと戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます