Sっ気生徒会長

 翌日。


 俺はいつも通り登校し、教室につけば友人と談笑をする。

 とは言っても、ろくな話は当然のようにしないけど。基本恋愛ネタだな。思春期男子ってのはそんなもんよ。


 そこに、華音が登校してきた。


「おっ、裕樹の想い人がやってきたぞ」

「想い人言うな。恥ずかしいし、聞かれたらどうすんだ」

「大丈夫だって。ほら、行ってこいよ」


 友人の荒澤が、からかうようにそう言ってきた。


 本当に、マジで不服だが、荒澤に勧められるように見えてしまいながらも俺は華音のところに行く。荒澤後でシメるぞ。


「おはよう!」


 元気に百点満点の笑顔で挨拶をする。

 うん、今日もいつも通り、華音は可愛いな。


 そんな華音は、俺に話しかけられてビクッと目にわかる程飛び上がり、振り向いて目が合えば、顔を真っ赤にして小さく会釈をして教室の外へと旅立った。


 ……今日もいつも通りだ。俺は悲しいよ。


「ははっ、今日もフラれてやんの?」

「どんまい〜」

「ハァハァ……竹崎君今日もカッコいい……」

「竹崎コロス」

「お前らうるせー!」


 フラれたことを弄ってくるやつらにそう叫び、ある意味毎朝のルーティーンを済ませる。本当はルーティーンなんかにしたくないし、ちょっとくらい変わってくれてもいいと思うんだけど。


 んなこと心の中で思ってても本人の対応が変わるとは変わんないし、いつか挨拶くらい返してもられえる日が来るのを祈っとくか。


「―――竹崎君居ますか?」


 そんな俺のもとに、一人の女性がクラスのドアの外から俺を呼ぶ声が。


「あ、会長」


 彼女は、俺達の学校の生徒会長を務める、夜澄柚希やすみゆずき先輩だ。


 彼女は俺を女子にしたような存在。

 ひとつ上の二年生なのだが、見事生徒会長を務めあげていて、頭も顔も、性格もいい。……但し、運動はからっきしだ。


 ちなみに俺は、流石にトップというのは厳しいが、運動神経が悪いという訳ではなく、クラスでも上位ってだけだ。……もしかして華音は、運動神経が良い人が好きだったりするのか? うーん、わからん。


 おっと、ちょっと脱線したな。


 先程言った通り会長は完璧な人で、顔や性格だけが理由ではなく、実際に会長が会長になってからはこの学校がより良くなったと聞くし、生徒からの信頼も厚い。


 そんな完璧人間に俺は入学したてのくせして生徒会入りを誘われ、生徒会入りを果たした。役職は庶務。


「どうしたんですか? 俺に何か用事があったり……」


 会長が直接俺の教室まで来るのは少々珍しい。

 いつもは放課後に生徒会の活動があり、そこで次回の予定を教えて貰っていたため直接呼ばれることは少ないのだ。


「いや、特に無いですよ。単純に、竹崎君に会いたくなっただけです」

「……………………ん?」

「竹崎コロス」

「竹崎コロス」

「竹崎コロス」


 うわっ、三倍に増えたぞ。

 怖い怖い


 何言ってるんですか! という気持ちを込めたジト目を会長に送るが、会長は微笑むだけで気にした様子が無い。……あれ、本当に性格良いのこの人。


 俺のことを呪おうとする男子どもが徐々に、一歩一歩と近づいてきて、俺は危機感を覚え始めた。

 もし会長が何かをフォローしてくれなければ、俺は殺られる。


「……ちょっ、お前ら一旦落ち着け? な? 俺達友達だよな?」

「「「生徒会長様にあんなことを言わせる奴は、友達じゃない」」」

「ひでぇなおいぃ!」


 いや、ほんと誰か助けて⁉

 目からハイライトが消えたゾンビみたいなやつらが群がってくるんだけど、俺どうしたらいいんだよ⁉


 ……大声で陽を呼んだら、来てくれるかな?


 声を出すために息を大きく吸い始めれば、生徒会長がやっと口を開いた。


「皆さん、もちろん嘘ですからね。竹崎君には手伝ってほしいことがあっただけです」

「「「なんだー」」」

「遅いですよ会長! さっきまで生命の危機感じてたんですよ⁉」

「でも、間に合いましたよね?」

「そうですけど……」


 会長にはSっ気があるみたいだ。

 偶にこういうことがあるため、今回もそうだろうなと思ってはいたのだが……遅すぎだ。精神的にめっちゃ疲れたんですけど。


「ごめんな、裕樹。俺達は友達だ。うん」

「竹崎、すまなかった」

「竹崎コロス」

「一人絶対反省してないだろ……」


 朝から疲れたわ……特に精神が。


「……で、手伝ってほしいことって何ですか?」

「事務室のところに先生に頼んでおいた生徒会の広報のプリントが届いているんですけど、量が多くて一人で運ぶのが無理そうで……お願いできますか」

「「「はいっ! 俺やります!」」」

「お前ら生徒会でも何でもねぇだろ……一人で十分そうなら庶務の俺がやりますよ。足らなそうなら、こいつらの中から一人引っ張ってきますが……」

「ああ、一人で大丈夫ですよ」

「「「そんなぁ……」」」


 絶望といった様子でその場に倒れこむ男子ども。

 そんな様子の男子を眺めながら、俺達は教室を後にするのだった。

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