アイス

「あ、そうそう。今日もダメだったわ」

「またその話……そんなの、僕と一緒に帰ってる時点でわかってるよ」


 コンビニに行く途中、ふと今日も華音と一緒に帰ることを断られたと報告した。


 いや、もうこれ日課みたいなもんなんだよね。

 毎日こうして陽に愚痴もどきの話をしていて、流石に陽ももう聞くのがうんざりといった様子だが、それでもちゃんと聞いてくれるところ、俺は好きだな。……いや、もちろん友達としてな。見た目は女子だけど、れっきとした男だし。それに俺にはもう好きな人いるし。


「……それにしても、女子といる時に別の女子の話題を出すのはいけないと思うよ」

「ん? 女子?」

「ぼ・く・の・こ・と!」

「いや、お前男子だろ」

「そうだけどさぁ……ほら、見た目だけでも! ほら見て見て! 女子でしょ!」

「だから男子だろって。確かに見た目はそこらの女子よりも可愛いけどさ」

「もぉ……裕樹のばかっ!」

「え、何で俺いきなり罵倒されてんのよ」


 陽は「自分で考えたら!」と言って、ふんっとそっぽを向いた。

 ってか、自分で考えろって言われたってよぉ……なんもわかんない。


 どうやら陽の機嫌を損ねてしまったようなので、どうしたものかと機嫌を直す方法を模索する……っつっても、そこまで深くは考えてないけど。だって、陽って意外と現金な奴だから。


「……アイス奢るから許してくれ」

「……それ、裕樹の悪い癖だよ。こうやってすぐ物で釣るところ。アイスは遠慮なく奢ってもらうことにするけど」


 ほら。

 そこにはもう機嫌の悪そうな陽はなく、いつも通りの陽となっていた。

 というか、機嫌直りすぎて「あ、ハーゲン〇ッツね」とか言ってる始末。誰だアイス奢るなんて言ったやつ。一番高価なもん頼まれてるぞ。……別に陽の機嫌を直せるなら、それくらい安いけどさ。


 それから五分もしないうちに、目的地であるコンビニまでたどり着いた。


 陽はコンビニに入ると即座にアイスコーナーに向かい、どの味にするか物色している。楽しそうで何よりだ。俺の財布は悲しくなりそうだけど。


 俺もその後に続いて、アイスコーナーへと向かった。


 安いやつにするか……と、俺が選んだのはガリ〇リ君。味は普通にソーダ味だ。

 なんだかんだ言って、普通が一番だよな。


 陽もしばらく悩んだ末に、クッキー&クリームの味のハー〇ンダッツを持ってきた。……ハーゲ〇ダッツは別。これはクッキー&クリームこそが至高。普通が一番と言っても、バニラ味よりは断然こっちの方が好きだ。


 とか思いつつも、二つのアイスを購入してコンビニを出る。


「あぁ……暑い……」

「コンビニって、やっぱ天国だよな……」


 外は変わりなく暑いままで、冷房の効いた店内はまさに砂漠の中のオアシス。いくらでも居れるわ、あそこ。


 早速俺達はアイスを取り出して、食べ始める。


「んんっ~!やっぱハーゲンダ〇ツは美味しいなぁ……」

「……一口くれ」


 あまりにも陽が美味しそうに食べるもんだから、俺も欲しくなってきちまったじゃねぇか。ガ〇ガリ君だって美味しいけどさ。


「い、良いよ……ほら、あ、あーん」


 パクリ。


「ん、やっぱクッキー&クリームは最高だな」

「……か、間接キス、だね」

「んなもん、男子同士なんだし気にしねぇだろ」

「……むぅ……」


 少し不機嫌モードに入ったようだが、先程とは違ってそれは一瞬で、すぐに嬉しそうな表情に戻った。ほんとコロコロ表情変わるな、陽のやつ。


 それからはただひたすらにアイスという幸せを噛みしめながら食べ、三分かそこらで完食した。


 ゴミをコンビニ横にあったゴミ箱に捨て、再び地獄のような暑さの中を歩き始める。


「……ねえ裕樹、もう一個アイス買ってきて」

「だーめ。糖分の取りすぎになるぞ、ってのは建前で、これ以上は俺の財布が悲鳴を上げ始める」

「わかった。我慢する」


 いや、俺も食べたい気持ちはわかるけどさ。なんせ、この暑さだし。

 ……金降ってこないかな。ガチめに。


 あまりの暑さで俺達の間で会話が全くと言っていいほど起こらないうちに、俺と陽のが別れる分かれ道についてしまった。


「じゃあ、また明日ね~」

「おう。熱中症とか気を付けるんだぞ」

「はいはい」


 もう一度「じゃあね~」と言って俺の道とは別の道を行く陽を見ながら、俺も歩き始めた。


 ……にしても、ほんと暑いな。






☆あとがき

明日からは毎朝九時、一日一本更新で行きます。

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