第10話病院で心を鬼にした。
そんな会話の後、救急車も、おれも、無事病院に到着し、しばらくの時間が立った。
そこからは、ひたすら待機と検査の繰り返し、まぁそれを説明していたらキリが無いので割愛する。だが、これだけは言わせてもらおう。誰がなんと言おうと、ナース服とはいいものだ! この世界では未だにナースさんが健在ひゃっほー! 何故、ナースさんの後ろ姿というのは惹きつけられるものがあるんだろうか? 妖怪お尻さんの所為なのね、そうなのね。特にあれです。前かがみになったナースさんとか最高だと思いませんか? ぴっちりなのにむっちり……。くっ、おれの下のおれが目覚めてしまう!?
「ナニヲ、ミテイルンデスカ?」
あ、はい。ごめんなさい。ですから、このアイアンクローを外して下さいませんか、舞様。手を握られた時も思ったけど、握力が半端じゃないのよね、この子……あ、何かが軋む音が……。
そして、現在ーー。
おれは病室のベッドに寝転んでいた。
ちなみに部屋は個室。舞が用意してくれた部屋なんだけど、怖くてお値段は聞けていない。
「まさか、入院することになるとはなぁ……検査して終わり、で家に帰れると思ってたんだけど」
「先生は一日だけと仰っていたではないですか。一日だけ、一日だけ我慢しましょう?」
おれがそう愚痴ると、我が儘な子供に言い聞かせるかのように、舞が諭す。
あの、頭をなでなでするのは止めて下さいませんかね? 本気で子供扱いされてるみたいで、愚痴った自分がものっそ情けなく感じちゃうんで……。
検査の間、話相手になってくれたり、飲み物を買いに行ってくれたりと、何かとおれの世話を焼いてくれた舞。お礼だから、と舞は言ってくれてはいるが、こちらとしては至れり尽くせりで逆に申し訳ないと考えてしまう。
なので、むしろお礼をしたいと伝えたら、にっこりと笑って、未来の妻として当然のことですからと、訳の分からない事を言われる始末。
友達からって言ったよね? あ、はい。『今は』って事ですね、そうですか……。
「そう言えば、雄太様。お家への連絡はどうされるのですか?」
あ、そうだった! 流されるままにここまで来ちゃったからな……忘れてたよ……。
昨日の今日で入院とか、ママンに心配かけまくってるよな、おれ。でも、後悔はしていない。舞……いや、女の子の顔に青痣なんて、絶対に許しちゃ駄目だろ? だから、後悔はこれっぽちもしていない。とはいえ罪悪感というか、また、ママンに心配かけちゃったなぁっていうのはもちろんある。
あっちでもこっちでも親不孝者だな、おれ……。
「あぁ、後で電話で伝えておくよ。この部屋、電話使えるんだよね?」
「そうですね。どうしても、ビジネスで必要とされる人も居ますので、このお部屋はネットも電話も繋がるようになってますよ。あ、学園の方にはセバスに言って連絡してもらいました」
さすが、個室。大部屋とは違うのだよ、大部屋とはな……。
「そうか、学園にも連絡しなくちゃ駄目だったんだよな……ごめん、色々と任せちゃって」
「いえいえ、お気になさらないでください。先程も言いました通り……」
にっこりと笑い、未来の妻としてーーと、もはやお決まりのように応える舞であった。
「あー、やっぱ退屈だ」
そうこうしている間に昼が過ぎ午後となった。舞とは一旦お別れということになり、今はおれ一人だ。制服のままだったし、着替えとか色々とあるんだろう。ここまで付き合ってくれただけでも感謝感激雨あられって奴だ。ちなみに、おれは病院から渡された患者衣に着替えてるので、服に関しては問題無ッシング。
問題があるとしたら、やっぱり暇だってことだ。この病室、ネット使えるらしいからスマホで動画を見たりは出来るんだけど、充電機とケーブルを持ってきていないことを思い出し、電池節約のために使ってはいない。
あ、ママンにはちゃんと連絡入れたよ? 仕事中だったのか、電話出れなかったみたいだけど……。
今晩は一人かぁ、ママンとお姉様のお休みの挨拶もないんだよな……寂しいよ~。
とか考えていた時であった。
ーーコンコンッ
と、病室の扉をノックする音が響いた。
まぁ、先生かナースさんのどっちかだろうけど、何の用かな? 出来れば、ナースさんがいいなぁ~。との願いを込め、おれは扉に向かい、「はぁ~い」と声を掛ける。すると、扉がゆっくりと開きーー。
「雄太ちゃん、ママ……来ちゃった♪」
と、微笑まれる女神様がご降臨されたのであった。
「母さん? 何で!?」
いや、電話はしたけど、まだ話せてなかったし、どこの病院とか教えてないはずなんだけど?
「鈴子ちゃんに教えてもらったの。雄太ちゃんの電話に出れなくてごめんね? 車に乗ってたから、電話に出れなかったの」
いやいや、そこはいいんだけど……今日、一日だけだってのに、態々来てくれたのか……。
「検査では何の問題も無かったって、病院から連絡があったから大丈夫だって鈴子ちゃんが言ってたけど、それでも、ママすっごく心配したんだから……こうして、元気な雄太ちゃんの姿をみて、やっと安心できたのよ?」
そう言って、ママンはおれを抱き締めてくれた。ママンの温もりが、おれを包み込む。あと、いい香りとか柔らかい二つの何かにも包まれる。あぁ、ここに楽園はあるんだ……おれが帰るべき場所はここなのだと、嫌が応にも理解させられる。後、封印されしおれも立ち上がり……やらせはせんぞ!? ここは、そんな場面じゃないんだ!
「えっと……ごめん、母さん。心配かけちゃって……」
おれは、そんなママンに素直に謝った。
「雄太ちゃん? 謝らくていいの……聞いたよ? 女の子を守って怪我しちゃったんだって……。雄太ちゃんはいっぱい頑張ったんだよ。だから、ママ、いっぱい誉めちゃう♪ 頑張ったね。偉いよ、雄太ちゃん。雄太ちゃんが優しいいい子に育ってくれて、ママすっごく嬉しい」
抱きしめたおれの頭を優しく撫で、いい子いい子と囁いてくれる。何度も、何度も……。そんな温もりに、おれは不覚にも泣き出しそうになってしまった。男の子だもん、我慢したけどね!
しばらくの間、おれはママンに抱き締められたまま、大人しく撫でられるしかなかった。ナデナデ、いい子いい子、ナデナデ、いい子いい子。ナデナデ。
ーーあぁ、このままママンとひとつになって原初の海へと帰ってしまいたいーーモゥ、ナニモカンガエラレナイ。コノママ、スベテママン二ツツマレタママ、トケテ……。
はっ!?
「あ、ありがとう。もういいから!」
がばっと、おれはママンの抱擁から逃れ、距離を取る。おれは、今何を考えていた? なんか、一瞬『オカエリナサイ』って聞こえたような気がしたんだが、あれは一体……。
「あん。もぅ、雄太ちゃんの意地悪……ママ、もっとも~っと雄太ちゃんにいいい子いい子して甘えさせてあげたかったのにぃ」
そんなおれに、ママンは少し唇を尖らせ、瞳をうるうるとさせながら軽く睨んでくる。睨まれているはずなのに、すっごく萌えるんですが……本当に、性少年的に恐ろしい女神様である。まさに天敵と言えよう。こんな温もりと香りと感触とかその他もろもろをネタにしたら、恐らくは一瞬で……くっ、おれは絶対に負けない!
ちなみに、必勝法は元の世界の母ちゃんを思い浮かべることだ。それだけで、もう一人のおれは黄金な櫃へと一瞬で封印されてしまう。すまぬ、母ちゃん。
「でも、本当に元気そうで良かった。あ、後で涼子ちゃんも来るって♪ それと、今日はママ、このお部屋でお泊りできないか病院の人に聞いてこようかなって……」
「いえ、大丈夫ですので、お帰り下さい」
密室でママンと二人きりとか、絶対に寝れないのでお断りする。あぁ、涙が出そうだ、血涙が……。
「でも、でもぉ~……心配なんだもん」
『もん』頂きました。これ、実際に使える人って限られてるよね……雅也やおれが使ったら、その時点でゴングの音が鳴り響くことだろう。女神様や天使様や姫様は認める。逢瀬さんは……あざとさ全開で使ってきそうなので、心を鬼にしてツッコムしかあるまい……これは差別ではない、区別だ!
「大げさ過ぎるよ。それに、母さんが止まっちゃったら、姉さんが家に一人になっちゃうでしょ?」
むしろ、そっちのが心配である。
「むぅ~、そうね。涼子ちゃんだけ一人なのは可哀そうだもんね……あ、それじゃみんなで泊まれば……」
ママンが名案思いついた! って感じで、手を叩く。駄目ですからね?
「だ~め。明日も学校や仕事があるんだから、ちゃんと家で寝なさい。雄太くんは許しませんからね! メッだよ、母さん」
おれは心を鬼にして、非情に厳しい口調でママンにそう告げるのであった。あ、泣かないでママン。ぎゅってしてあげるから、ほらぎゅーって!!!!
モブですが、モブの彼女に出会うその日の為に、二度目の青春を謳歌します! NeKoMaRu @nekomaeu
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