第8話許しちゃいけない出会いもある!
「ここがユータの教室! ワタシの教室と変わらないネ!」
天使様、それはそうでございます。多分、1年から3年まで何組だろうと教室は大差ないと思いますよ?
覚悟してたけど、視線がすごい。レナは……多分、視線に慣れ過ぎてて気付かないんだろうなー。どこ行っても見られるだろうし……一々気にしてたらキリが無いんだろうね。ヒロインの定めである。
「それで、おれに何か用なのか?」
「あ、そうダ! ユータ、お昼は食堂かナ? それとモ、お弁当?」
あぁ、お昼を一緒に食べようって約束してたか……ちなみに、ゲーム知識で言えば、リナはお弁当のはずだ。しかし、おれは食堂派。さて、どうしたものか……あ、購買でパン買えばいいか。
「おれは、購買でパンを買うから、リナに付き合うよ」
「いいノ? ユータが食堂なら、ワタシも食堂で食べるヨ?」
いや、リナと食堂とか、なんか色々と食う気無くしそうだし……周りの視線的にね?
「ほほぉ、シュルツさんは木橋くんとお昼一緒に食べるんだ~」
なんか来たぞ……声をした方を見れば、そこには逢瀬さんが何時の間にやら立っていた。
「あぁ、朝に約束してさ」
隠す事でもないので、素直に答えてやった。変に誤魔化そうとしたら、奴にからかいのネタを提供するだけなのだ。
「あぅ……誰、ですカ?」
おっと、リナの人見知りモードが発動しちゃったか……。
「おれのクラスメイトの逢瀬さんだよ。大丈夫、ちょっと性格悪いけど、悪いスライムじゃないよ!」
「どういう紹介なの、それ!?」
そのままの意味だが? 大丈夫、大丈夫とリナの頭をぽんぽんとしながら、逢瀬さんの紹介をしてやった。いやぁ、天使様の御髪は相変わらず素晴らしい手触りですなー。
「えっと、リナ、でス。よろしくお願いしまス、おぅ……オーセさん?」
「お、おおぅ……まじ天使だわ……」
リナにオーセさんと言われた逢瀬さんが、その破壊力に慄いている。ふはは、うちのリナさんの上目遣い自己紹介の破壊力は凄かろう? 例え同性でも防御無視でズキューンと来てしまうぞ? あ、姫様なら耐えるかもしれんが……そういや姫様、結局来なかったな……風邪でも引いたのかな?
ちなみに、姫様もヒロインの一人ですので、覚悟しておいて下さい。主に……きみこいファンのおれ……。
「それで、お昼はどこで食べる予定なの?」
何時の間にやら、馴れ馴れしくイエーイとか言ってハイタッチを強要している逢瀬さんにチョップを食らわせながら、リナに尋ねる。
「あ、そうでしタ。お昼休みに、ワタシ迎えに来まス!」
なるほど……リナがお弁当を食べる場所といえば、あそこかな?
主人公とリナが一緒にお弁当を食べていたシーンを思い浮かべ……あれ? おれ、主人公の立ち位置奪っちゃってないか? とか考えてしまった。
--まぁ、いいか。
一瞬悩んだが、この世界では主人公が万が一誰とも付き合えなかったとしても、親友ENDで終わるだけだ。RPGなんかとは違って、魔王を倒せなくて世界が滅ぶなんて事も無い。主人公もヒロインも自由なのだから、シナリオ展開に拘る必要は無いだろう。あるとすれば……姫様くらいか……彼女だけは、主人公との出会いの問題で、もしその場に主人公が居なければ大怪我をしてしまう可能性がある。
そういえば、そのシーンでも姫様が遅刻していたな……理由は、確か登校に使っているリムジンのエンジントラブルだったか……まぁ、姫様こと、
そんな彼女と主人公の出会いだが、遅刻したその日、学園に到着して校舎へと向かう最中に、どこから飛んできた野球のボールが当たりそうになった所を、割って入った主人公が恰好良く素手でキャッチするんだ。それが切っ掛けで二人は……って感じだった。べたべたながら、少女漫画的王道展開で、おれは割と好きだった。
ふぅむ、万が一ってこともあるし、一応確認しておくかな……。
ーー!?
次の授業で野球でもやるのか、体操着を着た連中が用意されたバットをボールを使って遊んでやがる。んで、あの姿は……くっそ!!!?
「悪ぃっ!!」
「えっ?」
おれはリナと逢瀬さんに一言謝り、即座に教室から駆け出す。クラスメイトが唖然とした顔でこちらを見ていたが、説明する時間も無ければ、説明をしても無駄だろう。なにせ、これから起こるかもしれない事なのだから……。
何度でもおれは言おう。この世界は現実の世界だ。セーブやロードなどは存在しない、そして主人公は一人なのだ。こういったゲームをプレイしていた人なら、考えたことは無いだろうか……もし、あそこで主人公と出会ったなければ、あのヒロインはどうなっていたのだろうかと……まぁ、そこはゲームだ。ヒロインとして攻略を外れた時点で、そのヒロインは登場しなくなったり、ヒロイン自身の本ストーリーからは外れた人生を歩んでいるはずだ。だが、もし、その世界が現実で、主人公は一人しか居らず、しかし出会いのシナリオだけはしっかりと進行していたら? そして、主人公が他の誰かと一緒に居て、その場に居合わせなかったら?
答えは解らない。起こってみなけりゃ、分らない。だが、起っちゃいけない事ってあるだろう?
女の子の顔面に、野球の硬球が直撃する……ヒロインだからとか、そんなものは関係ない。知っているのなら、知ってしまっているのなら、絶対に止めなくちゃいけない。男として、嫁入り前の女の子の顔面は絶対に守ってやらああぁぁぁぁっ!!
と、そんな決意を持って、おれは全力で走る。運動不足の身体が恨めしい。おれ、無事に姫様を救えたら、お礼に白馬でも買ってもらおうかな……そしたら、こんなしんどい目をしなくてすぐに駆け付けれるかもしれないな……。
途中、なんどかお叱りの声を受けるも、止まるわけには行かない。階段を駆け下り、一階へと到着。そのままの勢いで校舎から飛び出した。上履きを履き替える時間もない。すまない、おれの上履き。後でしっかり洗ってやる、おれとの約束だ!
目の前には、運動場が広がっている。無駄な広さが今は恨めしい。姫様は、まだ校門からゆっくりと歩いて来ている最中だ。まだ、何も起こってはいない。何事も無ければ、それでいい。おれがただ道化になるだけだ。それがいい、それの方がよっぽどいい。だけど……おれは、姫様に向かい駆け出す。おぉ、姫様ってばすっげーびっくりした顔してらぁ、そりゃそうだよな……遅刻して登校してきたら、クラスメイトの男が一直線に自分に向かって走ってきてんだから……はは、これで何も無いようなら、そのまま通り過ぎてどっか走り去ってしまおう。そして、体育座りで落ち込むんだ……教室に帰ったら、逢瀬さんにからかわれるだろうなぁ、リナにも変な目で見られちゃうかも……泣けるでぇ!
だがーー。
『カッキーン!』という音が、無慈悲に運動場に響く。そちらにチラリと目を向けると……くっそ、ライナー球じゃねぇか!?
一直線に姫様へと向かい、硬球が打ち出される。ま、に、あ、えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!
後、少し……!!
硬球へと飛び掛かるように手を伸ばし、おれは思い切り地面を蹴り飛ばした。そのまま、姫様と硬球の間に割り込み、主人公のように見事に硬球をキャッチーーボゴンッ……出来ずに、生え際の狭さだけが自慢の額で、受け止めることになったのだった。お、おでこで、よか……た…………。
「タ……-タ………ユータっ!!」
はっ!? 今、天使の声が聞こえたような……そうか、おれはもう……はは、ヒロインを庇って顔面キャッチで死亡か、主人公のようには、やっぱいかないもんだなぁ。ごめん、ママン、お姉さま、リナ……それに、『あの子』、はまだおれと知り合っても居ないから悲しむも何もないか……前世に続いて、こっちの世界の親まで泣かせることになるなんてな……。
「ユータ! 大丈夫!?」
あ、天使は天使でもリナの声だったわ。おれ、生きてたよ、ママン!!
「リナ……? いっつ、あれ? ここは……?」
目を開けば、そこに見えるのは知らない天井だった……それと、天使様のお顔のドアップが見えました。知らない天井、お前、邪魔。
「良かっタ。ユータ、良かっタ!」
うっほ、天使様がおれにぎゅーっと抱き着いてらっしゃる。なんという幸せ空間。めっちゃいい香りするし、柔らかいし……もう、このまま死んでもいい、なんて言わけがない。もっと、この時間を楽しみたいもんね!
それにしても、ここはどこだろう? 抱き着いて泣きじゃくるリナの背中を優しくさすりながら、周りを確認する。
あぁ、保健室……か?
学園で気絶したんだから保健室くらいしかないか……多分、誰かがおれを運んでくれたんだろう。お礼、言わないとなぁ……。
「良かった、目が覚めたみたいね。すぐに迎えが来るらしいから、そのまま横になってなさい。どうしても痛みが我慢できないようなら、この薬を飲むように」
そう声を掛けてくれたのは、ママン級の女神様。しかし、ママンとは違い、少々キツメの目で母性が足りない。保健室なのだから、保健の先生が当然居るわな……サブキャラクターの一人、保健の先生こと
「ありがとうございます、先生。って、迎え?」
「あぁ。片岸が手配したらしい……良かったな、VIP専用の病院に検査入院らしいぞ?」
くくっとクールに笑いながら、相沢先生がそんなことを言い出す。いえ、普通の病院でぱぱっと見てもらって何事もなければそれで終わり、ってくらいでいいんですけど? なんで、そんな大げさな事になってんの!?
「いえいえ、おれは大丈夫ですし、そこらの病院でぱぱっと……」
慌てて起き上が……リナがだっこちゃん状態で起きれない……。仕方がないので、寝たままの体制で言ってみた。
「しかし、君は頭を強打して気絶をしたんだ。良い病院でしっかりと検査をしてもらうに越したことはない。頭の怪我を舐めてはいけない」
う、それは確かに……前世でのおれの最後、よろけて液晶モニターに頭ぶつけて終わり、だったからなぁ……。
「はぁ、わかりました。頭の怪我は確かに怖いですからね」
素直に降参でっす。せっかくの片岸の好意だ。ここは素直に受け取って置こう。それに、そっちの方がママンやお姉さまに心配かけないだろうしね。
「うん、そうしておけ。さて、それでは……シュルツ、君はもう教室に戻りなさい。後はわたしが見ているので安心しなさい」
「いやでス! ユータと、居まス!」
しかし、リナはがっしりとおれに抱き着き、頑なに離れようとしない。困った様子の相沢先生が、おれの方に目をやり、顎を動かす。あ、おれになんとかしろって事ですね。
でも、どう言ったものか……。
「リナ。おれは大丈夫だからさ、ちょっと検査受けたらすぐに帰ってくる。だから、リナは教室に戻っていいんだよ?」
わお、全力で拒否されてますね……。
頭をぶんぶんと振り、さらに強く抱き着いてくる。「呼ぶ? 呼んじゃう?」と、おれの下半身に存在するもう一人のおれが反応を始めるが、今はさすがに大人しくしていてくれ。
こういう場合、彼女が居たことも、ましてや子供が居たこともないおれにはどうしていいのか、正直わからんのよ。あぁ、相沢教諭の早くしろという視線が痛い……どうする、おれ……。
--はっ!?
「じゃあ、こうしないか? もし、帰ってくるのを待っててくれたら、おれがリナに日本語の文字を教えてあげる。自慢じゃないけど、喋るだけじゃなくて、文字の方もマスターしてんだぜ、おれ? リナがいい子で待っててくれたら、ご褒美におれがいっぱい教えてあげるんだけどなー……」
どうだ!?
そう、おれのとった戦術とは『飴玉作戦』! いや、すまん。ほんと、それくらいしか思い浮かばなかったんだ。リナは天真爛漫という言葉を体現したような存在。とても素直で可愛い女の子。でも、言い方を変えると、それは子供っぽい子という事になる。泣いた子に上げる物と言えば、ペロペロキャンディーと相場が決まっているだろ!?
「……ほんト? ユータが、教えてくれル?」
「あ、あぁ! もちろん、任せてくれ!!」
「ユータと、二人きりデ?」
「あ、あぁ! もちろん、任せてくれ!!」
「ユータの、お家デ、二人きりデ?」
「あ、あぁ! もちろん、任せてくれ!!」
……あれ? リナさん、なんか色々と条件が加わっているような?
「ワカッタ! ユータ、待ってル。早く、帰ってきてネ!」
パーッと輝くような笑顔で、ツッコミを完全に封じられてしまうおれ。なんか、もう約束した事になってしまったようだ。針千本飲むよりも、この笑顔が陰る方がおれにはきっと辛いだろうと思うので、約束を破る気はありません。しかし、家で二人きりは流石にマズイ気がします……主に、おれの下のおれが耐えきれるか……邪気棒が目覚めないように、しっかりと封印しなければ……あ、ママンかお姉さまに監視してもらえば何の問題もないね、うん。
「ふぅ、話は纏まったようだな。では、シュルツは教室に戻るように」
「ハイッ! ユータ、待ってるからネ。ちゃんと帰ってきてネ?」
心配そうに、おれの頭を優しくなでてから、リナは教室に戻っていった。あぁ、温もりが遠ざかって行く……しかし、全身からめっちゃリナの香りが……くんかくんか。
「必死に鼻を膨らませて、何をやっているんだ? まぁ、君くらいの年の男なら仕方がないか……それにしてもだ、まだ出会って一日立っていないと聞いたが、えらく懐かれたものだな?」
呆れたように、というか呆れ顔でおれを見ていた相沢教諭が、さっきまでリナの座っていた椅子に座り、何故か無駄に色っぽく足を組みながら、おれに尋ねた。
保健室の先生はエロい。キマシタワー! 黒タイツキマシタワー! 上はガーターですか? ベルトなんですか!?
「……聞いているのかね?」
そんなおれの額にデコピンを食らわせる相沢教諭。ちょ、まじそれ洒落になりませんて、「コラッ♪」なんて可愛いレベルじゃないデコピンはクリティカルにも程がある!
「いっつーっ! そこ、洒落になりませんからね!? ごめんなさいごめんなさい、真面目に答えます! って言っても、おれにだって分かりませんよ? 確かに、困ってたリナのことは助けましたけど、そんな大した事をしたわけじゃありませんし……」
実際、おれは大したことはしていない。ただ、困っていたリナを助けただけだ。おれが居なくても、他の誰かがなんとかしたはず……その程度ことしかしていない。そう考えると、ほんとどうしてなんだろうなぁ、嬉しいことだけど!
「ふむ。まぁ、君のしたことが君の言うように、本当に大したことでは無かったのか……それを判断するのは、彼女だ。きっと、彼女には君のことが相当格好よく見えたのだろうな」
「あー……吊り橋効果みたいなもんですかね。どんな理由であれ、あんな可愛い子がおれなんかの友達になってくれたんですから、悪い気はしないですけどね」
いや、あれは友達なんてレベルじゃ……などと、相沢教諭が呟いていたが、まぁおそらくはそんな所だろう。朝も何やかんやと悩んだりしたが、今はおれが主人公の立ち位置に居るが、主人公とリナとの出会いがシナリオ通り進んだ場合、おれなんかほっといて主人公の方に行っちゃう可能性だってあるしな……あ、泣けてきた。
「君も難儀な性格なようだな……木崎くん。いや、あの愛奈の息子だったか……ふむ。日常的に愛し尽くされているが故に、むしろ愛に鈍感になってしまったと、いう可能性もあるか……面白い」
などと、言う相沢教諭であったが、今ママンの名前でなかった?
「あれ? 相沢先生は、母さんの事知ってるんですか?」
「ん? あぁ、愛奈も私も同じ女学園の卒業生でな。クラスメイトだったのさ、三年間ずっと同じな」
マジでか!? それは初耳だ……まぁ、サブキャラとモブキャラの関係だものな……シナリオには流石に出てこないか。しかし、こう聞くとやっぱりこの世界がしっかりとした現実であることを改めて認識させられるなぁ。シナリオに書かれて無くても、しっかりと歴史は紡がれているのだ。
「ふふ、君のお母さんは女学園では『女神様』と呼ばれていて、すごい人気だったのだぞ?」
あ、やっぱり女神様なんですね。大丈夫です、今でも呼ばれています。あぁ、女神様!
「そういえば、君の姉も同じ学園に通っていたね。彼女も、きっと人気者になっているのだろうね」
はい、女神様ですからね!
「……君は、あれだな……彼女達と比べると、なんというか……うん、がんばれ? いや、しかし木橋の女神達にシュルツ、これに片岸までもが加わる事になった日には……うん、君はこれ以上がんばらない方が世の為になるかもしれん。いいな、がんばるな、お前はもうがんばらなくてもいいんだ」
なんか、おれすっげー酷い事を言われたんですけど……泣いていいですか?
でも、この美乳脚線美教諭。最初は冷たそうな雰囲気があったのだが、こうして話していると普通にいい先生である。ちょい、口が悪いところがあるのが玉に瑕だけど、それも話しているうちに気にならなくなってきて、楽しくなってくる。あれ? ちょいちょい毒舌挟まれてるのが楽しいって、これ調教されてないか? Mなの? おれ、Mになっちゃったの?
まぁ、そんなこんなで、片岸が呼んでくれた迎えの車が来るまでの間、おれは保健室のエロい女性教諭との会話を楽しんだのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます