第5話そして、おれはこの素晴らしき世界へと踏み出した!

 さて、そんな夜中もベッドで一人エレクトリカルパレードだった翌日である。


 知恵熱も下がって体調は万全だ。いや、少々寝不足かもしれない……校高生の若い身体は、色々と充ち溢れすぎていたのだ。


「おはよう、マ……母さん」


 ふぅ、危ない。思わずママンと言いかけたぜ。この呼び方は、心の中だけにしなくちゃいけない。おれとの約束だ!


「あら、おはよう、雄太ちゃん。身体はもう大丈夫なの? 辛くない? もう一日くらい休んでもいいのよ? ママ、頑張るから……ね?」


 やっべぇっ!!思わず、頷きかけたぞ……だが、そうはいかないのだ。今日は、おれとして目覚めてからの初めての登校日なのだ。流石に、休む訳にはいかない。主人公やヒロイン達に会えるかもしれない、そんな大切な日なのだからっ!!だから、ママンがどんなに潤んだおめめでおれを見ていたとしても、どんだけママンからいい匂いがしていようと、おれは休む訳には「ハハ素直になれよぉ、なぁ呼んだろ? おれの事呼んだんだろ?」学園に行く事を強いられているんだ!!


 やや下の方に偏ったおれの心の声を無理矢理押し込め、おれは決意を新たにした。


「うん、もう大丈夫だから、ありがとう母さん。母さんの看病、嬉しかったよ」


 そう言って、ママンに向かってほほ笑んだ。


「うふふ、そう言ってもらえるとママ、嬉しいわ……ねぇ、雄太ちゃん。ママ、頑張ったのよ?ご褒美、欲しいな?」


 と、そう言っておれに向かって頭を差し出すママン。本当に、何なのだこの生き物は?どんだけ、おれの下のおれを刺激すれば気が済むんだ!?


「あ、うん。ありがとう、母さん」


 そういって、ママンの頭をナデナデする。ママンがナデポで堕ちてどうすんだ……。


「ふふ、ありがとう雄太ちゃん。ママ、大満足よ♪」


 満面の笑みでママンは朝ご飯の用意に戻っていった。


 なんというか、朝から濃厚な愛である。この世界なら合法なのだから、もうこのまま……「呼んだ?逝っちまえよ、GOGOGO!」ダ・マ・レ!!


 あぶねぇ、おれは何をとち狂った考えをしていたんだ……でも、合法……。


 はぁ、朝から色々と疲れることだ。おれは、冷蔵庫に向かうと、中から牛乳を取り出しコップに注ぐ。うん、朝の一杯はやっぱり冷えた牛乳だよね。止められない止められない♪


 ゴクゴクと飲んでいると、お姉さまがリビングに入ってきた……ごぷふぅっ!!!?


「げほ、げほ、げほっ」


 たらり~ん、鼻から牛乳~。いや、何やってんの、お姉さま……なんで、Yシャツ一枚なの? 大きなお胸がぎりぎりな部分までこんにちはしちゃってますよ?


「ちょ、何やってんのよ雄太。大丈夫? 鼻から白いの出てるわよ?」


 白いのって、牛乳って言おうよ。なんか、こぉ想像しちゃうから……あ、自分の鼻からと考えたら色々萎んだわ。


「ごめん、一気に飲んだら気管に入りかけちゃって」


 慌てて布巾を取り、零れてしまった牛乳を拭き取る。拭くのに使った布巾は、もちろんすぐに手洗いする。牛乳臭くなっちゃうからね、ジャブジャブっと……。


「まったく、気を付けなさいよ? おはよ、母さん。今日の朝ご飯なぁに?」


「おはよう、涼子ちゃん。今朝は、ベーコンエッグとわかめのお味噌汁ですよー。涼子ちゃんは、今日も白ご飯は少な目かしら?ダイエットなんて全然気にしなくてもいいのに」


 なんと、あのボディを持ってして、ダイエットだと? 一体、どこに何が付いているというのだろうか?いくら見てもわからん。女性の体重への拘りは、男にとっての永遠の謎である。


「何ジロジロ見てんのよ、雄太。お風呂で散々見たのに、まだわたしのこと見足りないのかしら?」


 そんなおれを、ジト目で、しかし実際にはトンデモナイ事を仰られながら、見つめるお姉さま。


「違うよ!? ただ、なんでダイエットする必要あるのかわかんないだけだよ!?」


 おれは手を振り、お姉さまの言葉を否定する。否定できない部分もあるが、それはそれである。そんなおれの様子にお姉さまは溜息を付き、「男の子にはわからないわよ」と呟き、食卓の椅子にどっかりと座る。


 そんなもんかねぇっと考えつつ、おれは食卓に着く前に、ママンのお手伝いをすることにした。まぁ、料理の乗ったお皿を運ぶくらいしか出来ないけどね! とはいえ、今のおれには一人暮らしの社会人生活で培った料理能力がある。オタクという人種は、結構凝り性な所があり、一時期料理やお菓子作りに嵌った事があったのだ。流行りの料理男子という奴である。披露する機会は無かったけどね(くすん)


「あら?ありがとう、雄太ちゃん」


 ママンがそんなおれをちょっぴり意外そうな目で見た。どうやら雄太くん、ちょっぴり反抗期中だったようで、ママンのことを煙たがったりお手伝いをしなかったりしていたようなのだ。まったくけしからん。まぁ、実際は反抗期というよりは思春期独特の照れのによる反応だったようだけどね。あれだ、好きな子に意地悪したくなるアレである。


「昨日のお礼だよ。これからはちゃんとお手伝いするからさ、もっとおれを頼ってくれてもいいんだよ、母さん」


 そう言って、ママンに対して笑いかける。あ、ちょっと涙ぐんでる……大げさだなぁっとこっそり苦笑い。


「もぅ、朝からいちゃいちゃしてないで、早くご~は~ん~!」


 食卓では、お姉さまがぱたぱたと催促されておる。おい、その動きは止めろ!?


 仕方ないので、さっさと机の上に食器を並べていく。ん~いい匂い。スタンダードな朝食って奴だ。ちなみに、我が家ではパン食ではなく、白ご飯のようだ。炊き立てご飯の香りはやはりいいものである。




「それでは、いただきます」


「「いただきます!」」


 皆でいただきますの挨拶してから、朝食の開始である。社会人として生活していた時は、朝食の時間よりも少しでも寝ていたいという毎日であったのだが、若返った身体にはしっかりと栄養補給をしておく必要があるだろう。何せまだまだ育ち盛りなのである、もきゅもきゅ。


「うん、ほんとにもう大丈夫そうね。良かったわね、雄太」


 お姉さまがわざわざ食事の手を止め、おれの頭をなでなでとしながらそう仰った。だから、その動きを(以下略 まぁ、弟だし男とは見なされてい無いのだろう。


「ほんと、良かったわね、雄太ちゃん」


 そして、ママンもなでなでに加わって下さった。これは、照・れ・る! 雄太くんの思春期特有のあれやこれも、少しは理解できるかもしれない。


 まぁ、すでにエレクトリカルパレードを済ませているおれにとっては、まだまだ余裕のよっちゃんではあるが!あるけど、お姉さま、見えてます。遂に見えちゃいけないピンクなアレが見えちゃってますよ!?


 雄太くん。むしろ頑張ってたのかもしれない……いや、おれの事なんだけどね。


 今のおれにとっては家族だけど他人、という意識があるからウェルカムだけど、ただの雄太くんには結構大変だったかもしれない。合法とはいえ、家族に対してなかなか割り切ることは出来ないだろうしなぁ……。


「もう大丈夫だって……二人とも、看病してくれてありがとうね。今日はちゃんと学校行くから」


「あら、珍しく素直にお礼言えたわね。うりうり」


 ちょ、しっかりとお礼を言ってからかわれるとは、是如何に!?頬をツンツンと突かれながら、憮然とするおれ。まぁ、でも……確かに、少し前までは素直じゃなかったもんなー。お姉さまの言うことにも一理はあるのだ。だからこそ、ここはなすがままの一択である。


「あらあら、涼子ちゃんだけずるいわ。ママも♪」


 おおぅ、ママン参戦!という派手なタイトルが垣間見えた。今や、おれの両頬はツンツン祭りの真っ最中である。しかし、このままという訳にも行かない。登校までの時間は有限なのだ。


「もう。ほら、早く食べないと時間無くなっちゃうよ?」


 二人の手を優しく押さえ、おれは時計を見ながらそう言った。


「あ、いっけない。この後、朝シャンもしないとなのに……」


 おれの言葉にはっとしたお姉さまは、急いで食事を再開した。ママンも、同じくだ。とはいえ、こちらはそれほど急いではいない。仕事はあるが、家族経営の不動産会社の事務なので割と時間に緩いのだ。所謂、社長令嬢だしね。


 そう考えたら、おれ無理にIT企業に勤めなくても……いやいや、男は自立してなんぼである。まぁ、もしも仕事のに疲れ切って人生嫌になったりしたら、お願いしちゃおうかなぁ~っとかは考えちゃうけどね!


「ご馳走様、それじゃ朝シャンしてくるけど、覗きたいなら堂々と来なさいよ、雄太」


 にやりんこ、とおれにチャーミングな笑みを見せて、お姉さまはぱたぱたとお風呂場へ向かって行った。


「…………まったく、何を言ってんだか姉さんは」


 やれやれと首を振りながら、おれは誘惑を断ち切りもっきゅもっきゅと食事の残りを頬張る。


「ふふ、ならママの朝シャン覗いちゃう?」


 やれやれと首を縦に振りながら、おれは誘惑を断ち切りもきゅもきゅと食事の残りを頬張った。


 さて、食事が終わり、ご馳走様の挨拶の後は食器を流し台に運ぶお手伝いだ。本当なら、洗うところまで手伝いたいところだが、おれにも多少は身嗜みを整える時間が必要だ。寝ぐせのチェックや着替えがある。まぁ、お姉さまとは違い、そこに化粧であったりなどが加わらないだけかなり楽な方だろう。




「それじゃ、行ってきまっす!」


 朝食を食べ、着替えも終わり、まったりとコーヒーを啜っている間に登校の時間となった。おれは、一足先に家を出ることにした。お姉さまは別の学園に通っている為、一緒に登校することはあまりない。途中まで一緒にってのはあるけどね。


 外に出て感じたのは、やっぱり感動だ。だって、お前、きみこいの世界なんだぜ?誰だって、あのエ〇ゲーの世界に行けたらなーっとか考えたことあるだろ?それだよ、それ。


 しかもだ、好きなだったあのシーンのあの場所とかに実際に行けちゃうんだぜ?まさに、聖地巡礼!それが可能な世界におれは来ちゃったのだ! いや、興奮しますな……。


 学園までの道のりは記憶の中にしっかりと残っているので、迷う心配はない。だが、今日はある意味でおれのお出かけデビューになるわけだし、少しくらい頼り道をしてもいいだろう。いいよな?答えは聞いてない!!


 というわけで、ルンルン気分で学園へまでの道を……おもっくそまっが~れする。目指すは、数ある背景画の中でもなかなかの頻度で登場する公園! ここは、主人公とヒロインが待ち合わせをする際に良く利用される事となる。この公園から、色々アレコレと始まるのだ!


 しかし、こうして歩いて居ると、当たり前の話だけど色々な人を見かける。出勤途中のサラリーマンや、おれと同じく学園へと向かう学生。それに、道端でしゃべりまくっているザ・おばちゃん。こうして見ると、あれだな……ママンやお姉さまクラスの戦闘力を持つ人は居ないようだ。テレビで見た女優さんやアイドルももちろん可愛かったが、あの二人レベル、となるとやはり見かけなかった。なんだろうな、これは……。


 一応、ひょっとしたら、という考察はある。あくまでも、ひょっとしたら、って程度だがーー。


 あれだ、『あの子』もそうだけど、一部の背景女性モブに関しては、巨匠自ら『女の子はヒロインだろうがモブだろうが拙者が描くからには手加減も容赦もないヲ』と仰っていたので、こんな事になってるのではなかろうか……つまり、おれは覚えてないのだが、ママンとお姉さまはこの巨匠の言う手加減無し女性キャラに当てはまるのでは?と、云う考察だ。


 さすがに、背景キャラ全員を覚えているわけでは無いのでなんとも言えないのだけど、確かに巨匠が描いたとされる子達はみんな可愛かった。


 それ以外の人達は、背景担当の人が描いたとか、過去作のモブ絵引っ張って来たとか、シナリオライターの頭の中にある世界観で生きる人々といった感じだろう。テレビに出ていた女優さんとかはそこそこ美人だったし、現実と同じで美人も居れば普通の人も居る、ということなんだと思う。これに関しては、男キャラもそう差は無いはず。


 まぁ、これくらいしか考えられないし、もうそれでいいだろう。ママンとお姉さまが超美人で困ることなど何も無いしね!……ナイ、ヨ?

 

「っと、ここが公園か……普通だけど、なんだこの感動は……まさに、聖地巡礼!」


 くぅっと拳を握りしめて、両腕を振り上げる。ヒャッハー! あ、ぼく悪い男子学園生じゃないよ、ぷるぷる。だから、そんな変な人を見る目を止めてくれないかな、お嬢ちゃん達。HAHAHA!


 ふぅ、感動したといえ、いきなり腕を上げてヒャッハー! はクールなおれがしていい行動ではなかったな。反省反省……。


 あぁ、そうだ。ここだ、この公園のこの小さな時計台。ここで、主人公とヒロインが待ち合わせをしてデートに向かうんだ。時計台に手を触れ、目を閉じその光景を頭に思い浮かべる。みんな、可愛かったなぁ……ゲームでは、自分が主人公であったのだ。だからこそ、全てのヒロイン達の笑顔は全部プレイヤーの物だった……それが、今じゃおれはただのモブ、あれ?ってことは、ヒロイン達のあの笑顔はおれはもう見れないってことか?


 それは、少しだけ、本当に少しだけ、寂しいかもしれないなーー。


 そう考え、朝の日差しの中、少し黄昏るおれであった。

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