第4話姉の愛も重かった。
「そうなれば、まずはどうするかだよな……」
机の上から新品のノートを取り出し、そこにメモをしていく。
記憶にある彼女の特徴は、セミロングで黒髪、目は少し垂れていて……とにかく、可愛い。うん、絵心は無いね。どっちのおれも。
似顔絵を描くことは諦め、特徴を過剰書きにしていくことにした。とはいえ、本当にそれだけしか情報がない。
「んー。あ、服だ!」
重要なことを忘れていた。毎日、画面に張り付いては彼女の顔ばかりを眺めていたので、うっかりしていた。確か、彼女はどこかの学校のセーラー服を着ていたはず……色は、オーソドックスな紺色で、襟の部分が白。それに、赤いリボンが付いていた。これは、かなりの朗報では無いだろうか? ネットで調べれば……調べ……セーラー服採用してる学校って、どんだけあるんだろうかと、思いついたはいいがすぐに思い至り遠い目をしてしまう。
まぁ、どう見ても修学旅行という感じだったからな、どの道この近辺の学校ではないだろう。あ、襟だ!そういえば、セーラー服の襟って地域によって違うとか聞いた事がある。結構大きかったと思うから、関西か名古屋といったところだろうか? って、範囲が広すぎるだろ、これ……学生であるおれが、ほいほいと探しにいけるような距離ではないし、行ったところでどうなの? って感じだな。
「となれば、彼女に会うチャンスはイベントシーンのみか……」
主人公とヒロインの一人である
それに、恐らくではあるが、彼女が遊園地に来るのは修学旅行なりの学校行事のはず。制服で来ていることから見ても、これは間違いないと思われる。
「そう考えると、あの子は1年先輩になるのかな?」
修学旅行と仮定するなら、彼女は現在二年生という事になるから、そうなるのだろう。ふと、姉さん女房という言葉が頭を過りニヤ付きそうになるが、イヤイヤと首を振り、妄想を打ち消す。
「まぁ、あれだけ可愛いんだもんなぁ。周りが放って置かないだろうし、恋人くらい居ると考えておいた方がいいかぁ……」
それが妥当な展開だろうな、とは思うんだ。自分が本当に素敵だと想う女性は、きっと他の誰かにも想われてると考えた方がいい。おれは、完全に出遅れた形から、彼女と出会うことになるのだから、妙な期待はしない方がいいだろう。だが、それでもおれは諦める気はない。恋人に成れなくても、友達には成りたい。友達にも成れなくても、彼女をこの目で見たい、触れることは出来なくても、そう……ただ、彼女の声を聞けるだけでも、おれはきっと満足が出来る。
数々のゲームをプレイし、そして自分以外の誰かの手で幸せになって行く女性達(外見年齢は様々だよ☆)を一体何十人、いや何百人見送ってきたことか。美少女ゲームプレイヤー舐めんなよって話である。
となれば、おれの目指すべき事は決まった。首級は10月18日、遊園地に在り! である。結構、先の話となってしまった。
それまでは、普通に二度目の校高生活を楽しもうと思う。しっかりと勉強をして、ママンや姉さんを安心させてあげたいし、現実の両親達にしてあげられなかった孝行の代わりに、という訳ではないが、今よりももっと幸せにしてあげたい。まぁ、実家が資産家でお金には困ってないみたいだから、おれが稼いで楽にしてあげたいというのは微妙かもだけど、それでも、おれがしっかりと就職して自分の人生を歩む事は、ママンにとっても喜ばしいことに違いないはずなのだ。子供の自立を喜ばない親なんて居ないからね。自立、させてくれるよね?
ーーママンや姉さんに監禁されて、ドロドロに甘やかされて生きる人生など、エ〇ゲーの世界にしか存在しない。
あ、ここエ〇ゲーの世界だったわ。しかも、シナリオライターがヤバい奴だったわ……無いよね?
一瞬、トンデモナイ未来を妄想してしまったが、まぁ有り得ないだろうと笑い飛ばす。
「雄太ちゃん。汗、かいたでしょ? ママが拭いてあげる。それに、ほら、雄太ちゃんが昔好きだった絵本も持って来ちゃった。うふふ、久しぶりに耳元で読んであげるわね♪」
そんな未来は絶対に在りないと笑い飛ばした矢先の事であったーー。
「それじゃ、ママは家事に戻るから、雄太ちゃんは晩御飯までゆっくり休んでてね♪」
超ご機嫌な様子で、ママンは部屋を去って行った。
「ウン。オレチャントヤスムヨ。オレノオレワゲンキイッパイダヨ、スナワチモウゲンキビンビンダヨ」
無心でママンの甘やかしを受けるしかない拷問のような時間であった。
何故、絵本を読むのに耳元に口を寄せる必要があるのだろうか、何故、吐息が聞こえるような距離で読み聞かせる必要があるのか、おれにはまったくわからない。ワカラナインダ。
そして、何が、とは言えないが、掛布団をしっかりと被っていた為にそれを無事に隠すことが出来た……掛布団パイセンに全員、敬礼!
それにしても、我がママンながらあの天然のエロさは何なんだろうか。外でも溢れさせていないか、心配で仕方ないよ、おれ……。もし、変な男がママンの周りに居るのなら、すぐに始末しなくちゃ……へへ、ヤッテヤンヨ。
と、まぁ、冗談はここら辺にして……あ、始末はするよ? とにかく、これからの事は決まった。あれだけおれを愛してくれるママンを悲しませるような事はあってはならないのだ。予定通り、おれは楽しく、しかし、しっかりとした学園生活を送るのだ!
大学卒業までの記憶はしっかりと残っているし、勉強の方は多分大丈夫だろう。そして、仕事で学んだプログラミングなどの知識や経験もそのままであるのだから、就職の方も問題ないと思われる。むしろ、これから更に勉強をしていけば、もっと上を目指せるのではないだろうか……うん、ママンの為にも頑張ろう。
そう、決意を新たにしたのだった。
「雄太、もう大丈夫なの?」
それから、数時間後の事である。軽いノック音の後に、姉ちゃんがひょこっと顔を覗かせた。
「うん、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね? 軽い風邪だったみたい」
と、心配そうな姉ちゃんに声を掛ける。すると、姉ちゃんはほっと息を付きながら、おれの部屋に入ってきた。
「ほら、おでこ……」
そう言いながら、自分のおでこを引っ付けて来る。あ、やべぇ……姉ちゃんもママンに似てすっげー美人だわ。長くストレートに伸ばした髪がさらっさらで、睫毛も長いし……これは、またおれの何かがヤバいかもしれない。うわ、ちょっと動いたら唇とか触れちゃいそうだと、ドギマギしてしまう。
「んー、まだちょっと熱があるような……って、顔が赤くなってるじゃない!大丈夫なの、雄太!?」
はい、無自覚なエロスとは斯くも恐ろしいものだと、ママンに引き続いて姉ちゃんでも学べました。彼女居ない歴、16年と24年、童貞には非常に危険なお方達です。
「だ、大丈夫だよ。ほら、もう元気だからさ」
慌てて布団の上で立ち上がり、ラジオ体操第一を行う。あ、ベッドの上だからジャンプは禁止ね。そんなおれの様子にくすくすと笑った姉ちゃんは「もう、わかったからバカな事しないの」と、おれに抱き着いてその動きを無理矢理止める……ベッドに立ってるおれを、である。姉ちゃん、その顔の位置はマジやばいです。呼吸は絶対しないで下さい。お願いします、何でもしますから。そして静まれ、おれの小宇宙。
「ほら、ちゃんと寝てなさい」
その言葉に、速やかに寝転がることを選択。それは、実に素早く判断された戦略的撤退である。少しでも判断が遅れていたら、我が軍の誇る大砲が爆撃により誘爆、凄まじい損害を受けていただろう。まさに、(黒)歴史に残る迷采配と言えた。
「ウン、ワカッタヨ」
コロン。ってな感じだった。
「まったく、バカなんだから。まだまだ子供よねぇ、雄太は」
そんなおれの頬をツンツンと突きながら、姉ちゃんはなんだかご満悦な顔をする。
「どうせ、昼間は母さんに甘やかされたんでしょ? ふふ、今日くらいはわたしも雄太のこと甘やかしてあげるから、覚悟しなさい」
差し当たっては、今晩のお風呂かなぁー。なんて、危険な事を呟く姉ちゃん……いや、お姉さま。コイツァヤバイゼ……オラ、ワクワクシテキタゾ。
その夜、ママンとお姉さまが何やら言い合いをして、結局は三人でお風呂に入ることになったのは、エレクトリカルパレードだった。
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