決戦・境目の城(前編)
「……ここが、大賢人の、城か」
その場所は異質だった。世界と世界の狭間に形成されたまったく別の世界。この世界を隔てる壁が、城を護る最大の城壁となっている。だが、この壁を突破したところで、城の中心部は更に遠くにある。だが、魔術を発動するのなら、これくらい離れていた方がいい。
魔導士は地面に大きな魔法陣を描いた。魔法陣は暗い紫色に発光し、通常の人間が見れば一瞬で体調を崩してしまうほどの瘴気を放っている。
ドドドドドドッ!
空から突然刺毛弾幕が降り注いだ。刺毛一本一本は着弾するごとに爆発し、描かれた魔法陣を瞬時に使用不可能にする。
「……ここまで離れていても、防衛設備は働くのか」
さすがは大賢人の城だ。簡単には魔術を発動させてくれないか。ならば……。
魔導士は、ばっとローブを広げた。ローブの内側から異形の者たちが飛び出す。
魔法陣を使用できないことは想定していた。あの大賢人の城だ。魔術の妨害はない方がおかしい。
「魔術が使用できないのなら、……初めから抱えておくだけだ」
ローブの下に、異形の者たちを大量に隠していた。その者たちが時には盾に、時には囮となり、魔導士を護る。それに、この刺毛弾幕はそこまで威力が高くない。
魔導士は安心して、魔法陣を描き直した。
魔法陣は再び紫色に発光する。禍々しい瘴気が放たれ、これから大きな災害が起こることを暗示させた。
==============
<<<<<<<>>>>>>>
==============
「さすがに無理か……」
城の中でシオリは苦い顔をした。この姿の刺毛じゃ威力が足りない。今から攻撃手段を切り替えても、恐らく間に合わないだろう。想定なら、叡持が正面で戦い、私がサポートする。だが、今の叡持は戦えない。そして、すぐに迎撃しなくては魔導士が何をするか分からない。
……打って出るか。
シオリは腰を上げ、格納庫を後にした。職人の目を、破壊し尽くす怪物の目へと切り替えながら。
〇 〇
〇 〇 〇 〇
〇 〇 〇 〇 〇 〇
〇 〇 〇 〇
〇 〇
「……十分だろう」
儀式を終え、軽く一息ついた魔導士。相手の本拠地で、ここまで魔術を使用できれば大成功だ。しかも、今は大賢人は戦えない。……見えた。勝利が。
ゴゴゴゴゴゴゴ…………。
静かに地響きが鳴る。地中を、何か気味が悪いエネルギーが這う。
バリバリ、と地面にひびが入った。そこから、黒い煙と黒い液体が流れ出た。
黒い煙も液体も、少しずついくつかの塊へと変わっていく。それは、魔導士が呼び出した亡霊の兵士。魔導士に支配された、忠実な下僕だった。煙と液体はひっきりなしに亀裂から流れ出し、兵士を続々と作り出してく。
城の端に集められた、死霊の大群。壮観な光景を見て、魔導士はうっとりとした。一度大賢人に挑んだ時の、ざっと数十倍の軍団を作り上げた。これほどの軍団をそろえれば、大賢人の殺害は確実——。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
空から再び刺毛弾幕が降り注いだ。所詮は迎撃用魔術か、そう思っていた時だった。
まばたきするごとに、軍団がぐっと減っていく。そして、自分を護る亡霊たちも、みるみるうちにやられていく。
だが、この程度ではこちらの兵隊の生産速度には勝てない。数は力だ。数をそろえれば、無理矢理攻めることが出来る。そう楽観的に考えていた。
遠くにいる、あの巨大な怪物が目に入らなければ……。
「……魔導士、ここをどこと心得る!」
大地を震えさせる轟音が届く。たった一声で、一部の亡霊兵は崩壊してしまう。強大な力を携えた怪物が、遠くからゆっくりと近づいてきた。
……な、なんだ……、あれは。
そこにいたのは、巨大な蜘蛛だった。
大量の毛を蓄えた、長く巨大な足。それが8本生えている。足がついている場所には、大きな4個の黒く透き通った目がある。
その四つの目は、はっきりと魔導士を捉えていた。
初めて見る、強大な怪物。その殺意はこちらに向けられる。
……大賢人をなめていた。彼は、本人が強いだけではない。強大な怪物を従えている。魔導士は一歩後ずさりした。
「……大賢人は出てこない。恐れる必要は……、ない」
魔導士は手をかざした。亡霊の兵はゆっくりと動き出し、城の本丸へ向けて進軍を始めた。
「この程度の軍団が、私に通じるとでも?」
巨大な蜘蛛の腹部から、ぶわっ、と刺毛が舞い上がる。しばらく宙に浮いた後、刺毛一本一本が、まるで意思があるかのように一直線に標的へ飛んでいく。
刺毛一本が兵隊を貫いた。刺毛は爆発し、周囲の兵隊も爆散していく。その刺毛が大量に降り注ぎ、軍団を壊滅させようとする。
おぞましい光景だった。亀裂から湧き上がるものから気味の悪い兵隊がつくられる。それが、大きな刺毛に貫かれ、爆散し、不気味な煙や液体に戻った後、消える。それが幾度となく繰り返される。城の中心部から離れたところ、城の総構えを突破されたくらいの場所で、気色の悪い人型をしたものが生まれては消されていく。
さすがは大賢人が従える魔物だ。これくらいでは突破どころか、前進すら出来ない。
……あれを使うか
魔導士は手元に魔法陣を展開した。そして、そこから一振りの剛剣を取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます