絶望的な戦力
「……おかしいなぁ」
シオリはデータ整理の傍ら、叡持が放っておいたDドライバのデータも整理していた。
最近は対魔導士の活動ばかりだったので、D ドライバの管理がずさんになっていた。こういう時に整理しなくては、後で更に面倒になる。
そんな時、トラブルは起きた。
Dドライバが、一つ足りない。
生産リストと実際の倉庫を何回も照らし合わせても、絶対に一つ足りない。
Dドライバは危険な魔道具だ。本来は生産した時から使用するまでしっかりと管理されている。
ここのところは異常だった。本来なら徹底的な管理を行うものを、他のものに注力するためにおろそかになっていた。その結果、Dドライバが一つなくなった。
……どうするか?
もし暴走して勝手にどこかへ飛んで行ったら? 実はこの城に侵入者がいて、誰かが盗んだとしたら? ……いずれにしても、考えられる事態は深刻だ。
「はぁ……、どこに行っちまったんだ?」
シオリは魔術を起動した。城を管理する、オペレーティングシステムのような魔術。製造プラントの稼働状況から、防衛用魔術、実験データの容量、計測用魔術のパフォーマンスまで、あらゆるものにアクセス・設定できる。
城の中で何かを失くしても、この魔術を使用することで簡単に見つけることが出来る。そして、この城の中で見つからないということは、Dドライバがこちらの意図とは関係なく城外に持ち出されたことになる。
「…………反応、なし……、か」
城内に、そのDドライバの反応はなかった。つまり、Dドライバが城外に持ち出されたことになる。いよいよ厄介なことになった。更に、行方不明のDドライバの情報を見たシオリは、更に状況が悪いことを知る。
「……よりによって、このDドライバだと?」
失われたのは、剛剣型のDドライバだった。これは、かつて少年領主に渡したDドライバの強化型。更に破壊力を増し、同時に危険度も増している。
まだテストはしていないが、前作を見ればいかに危険なものか分かる。無暗に暴れられたら困るし、Dドライバ単体で暴走しても面倒だ。ここは移動経路を調査し、速やかに回収しなくては。
シオリは管理用魔術をベースに、調査用の魔術を起動した。このような基盤となる魔術があれば、他の小さな魔術を強化し、安定化も期待できる。これは叡持が考えた画期的な魔術の形態だ。叡持がもともと住んでいた世界の、OSとアプリケーションの関係を参考にされている。さて、早く見つけなくては……。
剛剣は、初めしっかりと保管庫に置かれていた。さて、そこから移動する瞬間、何が起こったのか。
ずっと記録を凝視していたシオリに、思いがけない情報が飛び込んだ。剛剣が保管庫を離れる時、その時間だけ、保管庫にある者の反応があった。
「……ハヤテ? なんでこんなところに?」
ハヤテは基本、訓練場か、叡持の部屋かシオリの近くにいる。Dドライバの製造プラントや保管庫にはまったく近づかない。そんなハヤテがなぜ?
一瞬、シオリの中に黒いものが流れた。私がこんなことを考えたら終わりではないか。シオリは記録されたデータのうち、可視情報を再生した。
「……嘘だろう?」
そこに映っていたのは、保管庫の前に立つハヤテだった。腕にはめた糸を出す魔道具を駆使し、巧に鍵を開ける。まさか、私が作り上げたセキュリティを簡単に突破するとは。
そして、糸を格納庫の中に流し込んだ。糸が戻ってきた時、その先には……、あの剛剣が付けられていた。
剛剣を手にしたハヤテは、そのまま片手に魔法陣を展開した。展開した魔法陣に剛剣を収納し、そのままどこかへ行ってしまった。
セキュリティを突破する力があることにも驚いたが、更に驚いたのはあの魔法陣だ。いつの間に覚えたのか。自分の弟子の成長に関心すると同時に、事態の深刻さを思い知った。
あのハヤテが、Dドライバを持ち出した。
あの臆病で、だが妙に生真面目なあいつだ。そして、こんな状況だ。ハヤテがとる行動は一つしかない。
シオリはDドライバのトラッキングデータにアクセスした。そのデータによると、剛剣が持ち出された後、すぐに城外へと持ち出されたようだ。このスピード的にも、ハヤテが持ち出したことに間違いない。そして、その方向は……。
「魔導士の……、洞穴、か……」
なんてこった。あいつ、早まったのか? それとも、私が思っていた以上に追い詰められていたのか?
そして、なぜあのDドライバを選んだのか。あのDドライバは、かつて少年領主に与えたものの強化版。あの少年領主を、ハヤテはずっと気にかけていた。そして、あのDドライバの恐ろしさを知っているはずだ。
……その、恐ろしいものを使うほどの信念ということか?
シオリは頭を抱えた。叡持はずっと籠っているし、ハヤテはDドライバを持って脱走した。しかも魔導士の下へ……。
絶望的な状況だ。叡持はずっと籠っている。ハヤテは、もう生きて帰ってこないかもしれない。助けに行こう。 今ならドローンを向かわせれば——。
シュウウウウン……。
——! 城の中に、異物が侵入した。シオリは急遽防衛用魔術にアクセスし、異物の存在を確認した。そして、それを確認したシオリは絶望した。
「……ま、魔導士……、だと……?」
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