決戦・境目の城(中編)
……きりがない。
無数の刺毛弾幕を放ちながら、シオリは顎に力を入れた。
兵隊は、正直戦力としては見ていない。どれも弱く、シオリの手にかかれば一瞬で吹き飛ばすことが出来る。だが、数が多すぎる。そして、ほぼ無限に増殖する。
魔導士が気がついているのかは定かではないが、この城の立地も関係している。
この城は、世界と世界の狭間に築かれている。しかし、ただの境目ではない。ここは、あらゆる世界からエネルギーが流れ込む場所。エネルギーの集積地点だ。だからこそ、この城は無限に材料を作り出し、いくらでも魔道具を生産することが出来る。恐らく、あの兵隊はここに流れ込むエネルギーによって無限に補充され続ける。ならば……。
シオリは弾幕を緩め、糸を紡いだ。そして、その糸を思いっきり放り投げた。魔導士がいる方向へ。無限に兵隊が沸き続けるエリアへ——。
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……さて、どうすればいいものか。
魔導士は剛剣を取り出した。取り出したはいいが、何も出来なかった。
このDドライバという道具は、極めて危険な道具だ。
一度でも使用すれば、魂を侵される。一度でもおかされた魂は、既に私が使えるようなものではなくなる。それほどまでにダメージを受けてしまう。しかも、使い続ければ最期、私が従える者共よりも遥かに醜く不気味な者へと変わり果ててしまう。
あの竜が狙っていたのは、これなのか。
この道具は、絶対に使うことが出来ない。使えば、どちらとも深刻なダメージを受けてしまう。だが、あの竜にとって、それはメリットだ。竜は、そもそも生きて帰って来られる可能性が低いことを分かっていた。決裂すれば、自分は殺される可能性が高かった。その時、彼が剛剣を使えば、私は滅んでしまう。そうすれば、少なくとも母親を解放できる。もしくは剣を自爆させることで、どちらにしても母親を解放出来る。私に奪われたところで、そもそも私は使えない。そして、それを分かっていたからこそ、私は竜を殺せない。自爆特攻をする覚悟、刺し違える覚悟がある者を殺すのは愚策中の愚策。それを分かってて……。
……私は、このような考え方をするような存在だったか?
ずっと外に恐怖し、自分を維持するために命を奪ってきた。それしか考えていなかったのに。いつの間に、このような考え方をするようになったのか。それも、大賢人を滅ぼすために——。
シュルルルル……。
魔導士の周辺に、何か結界のようなものが張られた。
何か、別に自分に違和感があるわけではない。この結界の目的は何なのだろうか? 考えている時、魔導士はある違和感に気が付いた。
……兵士が作られる量が、減った?
明らかに、黒い液体や黒い煙の流出量が減った。
……そうか、あの結界は、兵士の量を減らすためのものなのか。こちらの物量を跳ね返すために、こちらの生産量を減らそうというのか。
ドドドドドドドドドドッ!
刺毛弾幕が再び激しくなった。亡霊が次々と爆散していく。何より、刺毛に兵士が消される量が、兵士が生み出される量を上回った。
このままでは、兵士が完全に消滅する。
魔導士はまた別の魔法陣を展開した。このままでは勝てない。魔導士は“切り札”を発動するための準備に……。
土地のエネルギーが、明らかに少ない。
このままでは切り札を召喚出来ないではないか。魔導士は渋々兵士の生産に使っていたエネルギーの一部を割いた。この魔術を発動するため、この戦況を覆すために。
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「結界はかなり効いてるみてぇだな」
確実に、兵士の生産スピードが落ちている。このまま押し込むか。
シオリは弾幕を濃くした。今のうちに一気に畳みかけて、あの兵士を全滅させる。そして亀裂を修復する。そのように考えていた。だが、甘かった。
魔導士がいる場所で、どす黒い風が吹いた。風は一点に吹き込み、巨大な旋風となる。旋風は大気中のエネルギーを取り込みながら、大きな一つの塊へと変わっていく。
「ハヤテの、母親……、か」
ついに来たか、魔導士の切り札が。あれを出すということは、相手は追い詰められているということ。あれさえ対処すれば、魔導士はすべての対抗手段を失うことになる。
……さて、ここからが正念場だ。
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