真実に迫る魔法使い(前編)
先のフィールドワークで得られた成果は非常に大きい。新たなバンドの発見、それに伴う理論の大幅修正。そして機材、魔術、あらゆるものを組みなおし、研究の大幅な発展を狙う。
得られたデータが余りにも膨大なので、城の設備をもってしても解析に時間がかかる。そして事件は、まだ解析が進まない時に起こった。
「叡持! あの煙の大量発生だ!」
シオリが血相を変えて叡持の部屋に入ってきた。
「あの煙がですか? 興味深いですね。ハヤテさん、行きましょう」
「はい」
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叡持が赴いたのは、山奥にある小さな村。ほとんど外との交流を断ち、その中で完結する閉じた村だった。叡持はハヤテ、ドローン数十機を率いて村の上空を飛行していた。
この村で、あの煙が大量に確認された。その痕跡を探るため、彼らは調査を開始する。
「殺風景ですね……。まるで、一瞬で生き物が消えたみたい」
ハヤテがつぶやいた。
「その通り。全く生命の気配が感じられません。そもそも、この村に生きた人間はいるのでしょうか」
『いねえな。ドローンで調べたが、この村の人間は、既に全員死んでる』
シオリが計測状況から報告する。ハヤテは耳を疑った。
「そんな、ほんとですか? そんな、村の人間が……」
「その程度なら僕でも可能です。爆発によって吹き飛ばすことも可能ですし、猛毒を散布して全滅させることも出来ます」
「そりゃ……、あなたならそうでしょうね」
『だが、ここではそんな魔術が使用された形跡は残ってないな。その代わり、あのスペクトルは見つかっている。そして、あの煙も確認出来た。だとしたら考えられるのは……』
「あの煙には、命を奪う力がある。ということですね」
『ああ』
「なんか、めちゃくちゃ厄介じゃないですか? その煙……、あれ?」
ハヤテが振り返り、叡持の方を見た。その時、叡持の背後に、何かがいたような気がする。
「いかがなされましたか?」
「いや…………、何でもありません」
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「はははははははははっ!」
不気味な洞穴に高笑いが響く。
遂に捉えた! 自分の存在意義を奪い、至高な楽しみを横取りしてきた存在を!
水晶玉には、あの魔法使いのことが常に浮かび上がる。
もうこいつは逃げられない。私に魂を捉えられた以上、もう私の気分一つであいつの魂を剥ぎ取ることが出来る。
あいつは死んだも同然。なら、しばらくは泳がせて、その様子を楽しむのも悪くない。
自分を散々邪魔してきたのだ。さて、どのような最期を贈ろうか……。
それにしても、ここまで簡単に私の罠に引っかかるとは。先にエサを撒き、近づけてから大きなエサで釣り上げる。
魔導士は暗い洞穴の中で、大きな愉悦に浸った。黒いローブを着込み、名状しがたい仮面を、魔法使いが映る水晶玉に近づけていた。
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「どうやらあの黒い煙は、『何者かに操作された生命のエネルギーの塊』と考えるのが自然ですね」
モニターに映されたスペクトルを見ながら、普段着の叡持が分析をしていた。部屋にいるのはシオリとハヤテ。あまり三人が集まって話をすることはないが、今回は特例。
未知のものだった黒い煙。それのデータを大量に集めたおかげで、少しずつ秘密のベールがはがれつつある。これに関する見解を、主要メンバーで共有する。
叡持は村から帰還して、真っ先に会議を開いた。
「えっと、つまり……、今までのバンドの幅で計測出来たものでは、黒い煙と生命のエネルギーがほとんど同じ形をしていた。そしてバンドを広げたら、新たに計測出来た範囲で違いが出てきた。そこまでは理解しました」
「はい。そして、今回のフィールドワークでも成果がありました」
叡持はそのまま、別のモニターに別のスペクトルを表示した。
「これは、あの村で確認したスペクトルです。これにも生命エネルギーを現す形が見られます。そして、新たなバンドで見つかる部分。ここのピークの大きさが、今までの黒い煙に比べて非常に小さい。そこで、前回のフィールドワークで得られた、被検体消滅から煙消滅までを観測したデータを見てみましょう」
叡持は更に別のモニターに、時間経過毎のスペクトルデータを表示した。
「これからも分かる通り、新バンドの部分が、時間を経るごとに減少しているのがお分かりいただけるかと思います」
「つまり、この部分が、あの煙の強さとか、影響なんかに関係してるんだな。じゃあ、何でこれを、何者かが仕組んだ意図的なものだと考えたんだ?」
「はい。まず、あの黒い煙が『何かによって影響を及ぼされた生命エネルギー』だということには異論はないでしょう」
「ああ」
「同じく」
「そう。つまり、あの時間と共に減衰する部分が、何かかしらの影響を及ぼしているものを現しています。僕は初めに、あれはDドライバによるものだと考えていました」
「そうなんですか?」
「はい。ですから、あのように少年領主を上手く利用して、黒い煙を起こす現象を作り上げたのです。事実、予想通りに黒い煙が発生したので、あれはDドライバの副作用の一部だという結論に自身を持っていました」
叡持は一度、一呼吸置いた。これからは自分の仮説の間違いを正すお話です、と言わんばかりに姿勢を正し、再び口を開いた。
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