モニタリング
「俺です。ハヤテです」
その少年は、叡持の新しい使い魔、ハヤテだった。
身長も小さく、なんというか、どこか守ってあげたくなるような雰囲気の少年に化けていた。
あまりにも化けるのが上手かったので、叡持すら見破ることが出来なかった。
「は~、なるほど。シオリさんに変身術を叩き込まれたのですね」
「はい。あんなにしごかれるとは思いませんでした」
「ついでに言葉も変わりましたね」
「そこはノリです。なんか、姿が変わると言葉も変わるというか。これでも、一時的に人間に化けて街に潜伏したこともあったんですよ。ですが、自分の変身術がいかにちゃっちいものだったのか思い知りました」
「なるほど。ところで、僕に何か御用ですか?」
「……いや、ただ『この姿を見せてこい!』と言われただけです」
少年の姿をしたハヤテが、恥ずかしそうに下を向いた。
「……そうですか。シオリさんも張り切っていますね。せっかくですから、あなたも一緒にモニタリングしませんか? これからあなたには、僕をいろんな場所に運んでもらう仕事をして頂きます。出来る限り親密になったほうがいいでしょう」
そういえば、これから俺はこの魔法使いを運ぶ騎乗竜になるんだっけ? その修行もみっちりとつけられた。
「あ、はい。なら、お言葉に甘えて……」
ハヤテは、叡持が眺めるモニターを一緒に眺め始めた。
モニター一つ一つには、被検体の現在の様子と、様々なデータがリアルタイムに表示されている。
「これ、全部被検体なんですか?」
「はい。この方たちは、全員僕の実験にご協力頂いている方々です。彼らは皆、爆轟術を扱うための魔道具『Dドライバ』の副作用についてサンプリングさせて頂いているのです。Dドライバの製造プラントはもう御覧になられましたか?」
「いいえ、まだ全然この城の中を案内されていないので」
「そうですか。ぜひ一度ご覧になって下さい。きっと驚きますよ」
叡持は目を輝かせながらハヤテを見ていた。
これが、あの時の魔法使いなのか。
ハヤテにとって、あの時の印象は強烈だった。
感情の読み取れない、冷たい魔法使いの印象が。
「あの……、気になってたんですけど、この被検体って、どうやって選んでいるんですか?」
「いい質問ですね」
そう言いながら叡持は立ち上がり、モニターに別のものを映し始めた。
先ほどまでのモニタリングではなく、正直よく分からない、何かもやもやしたような謎の図が表示されている。
「これはドローンから送られてくる解析データです。主に都市部上空を飛びながら、それぞれの実験に適合した被検体を探しているのです」
「ど、どろーん?」
「そういえば、こちらの方々には馴染がないですよね。簡単に言うと、無人で、勝手に飛んでいろいろな任務を行うことが出来る機械です。特にこの城で製造されるドローンは低級の精霊を搭載し、魔力で動いているので、非常に性能がいいんです」
「はあ……」
俺は、まだまだ学ばなくてはいけない。ここは、明らかにレベルが違う。俺達モンスターが必死に逃げていた冒険者なんか、全く太刀打ちできないほどの魔術を持ち、それらを生かすとんでもない力を持っている。そんな奴の使い魔なのだから、自分もそんなレベルに到達しなくてはいけない。
「……ところで、この被検体って、この後どうなるんですか?」
「ほぼ確実に、副作用におかされて破滅します」
「——!」
「そんなに驚かないでください。これは、副作用の研究なのですから」
叡持は天真爛漫な笑みを浮かべながら、ハヤテに説明する。
「つ……、つまり、ここに映っている人間は……、みんな、破滅するって、ことですか?」
「その通りです。全員、そのための『同意』をして頂いています」
ハヤテは、大量に映されている人間たちを、一人一人眺めた。
ほとんどは悪い奴だ。強盗、盗賊、殺人鬼、ろくな人間はほとんどいない。みんな悪い顔つきをしているし、正直こんな目に遭って仕方ない奴らだ。
「どうされましたか?」
「……いや、なんとも」
「では、一つ確認させて頂きたいのですが……」
「?」
「あなたは、人間が嫌いですよね?」
ドキッとした。自分が今、抱いていた感情と、もともと抱いていた感情が、激しく衝突した気がした。
「……は、はい。そうです」
「なら、とっても嬉しいことではないですか? 見ているだけで、人間が次々と破滅していくのですから」
叡持の言葉に対し、ハヤテは何も言えなかった。
なぜかは分からないもやもやに支配された。
代わりに、ハヤテは話題を変えることにした。
「あの、わざわざこういう悪人を選んでいるのですか?」
「いいえ、そのつもりはありません。ですが、人によって異形化の進行は違います」
「異形化?」
「はい、Dドライバによる副作用のことです。この副作用の進行が、なるべく早い方が大量のサンプルが集まります。すると、自然とそういう人たちに集中するわけです」
「はあ……」
俺は、この魔法使いのようにはなれない。これほど目的に対して迷いがなく、一直線に突き進むような力は俺にはない。
だが、それでいいのだろうか? この魔法使いは、本当にこれでいいのだろうか?目の前の魔法使いは、何か大切なものが欠落しているのではないか。
——何か、辛い経験でもしたのだろうか。
勘だけは鋭いハヤテは、この時何かを悟った。
叡持は、何かがえぐり取られている。と。
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