第8話

 帰りの道はふらつきながらタクシーに乗り、手元に残った札をトレイに置いて駅から歩いた。

 今日は親が帰ってきていた。妹の部屋を通り、リビングへ行くと母が背を向けてテレビにお腹を向けている。ただいまとの一言にも顔をこちらに向けることはなかった。まぁ、それでいい。

 引きこもった妹の部屋は今日も看板のアルファベットで入るなと示されている。自分の部屋に戻ると、ベットにそのまま倒れこんだ。

「なんだか、疲れたかというか悔しいだとか」

 あの客に負けたことが情けなく思えてならなかった。客に飲まされてなんぼなの商売ではあるが自分が好きな酒を飲んでどうすると入店日早々怒られてしまった。

 クッションから顔を上げて、明るくなった窓の外をカーテンで遮断する。朝までぐっすりと眠った。

 気づけば、真っ昼間だった。蒸された空気に起きて、窓を開ける。エアコンは使えない、金がないから。

「相変わらず、静かな朝だな」

 あまりにも殺風景で不気味にも見せるこの静まり返った世界は、どう考えてもあのどんちゃん騒ぎをしていた二人ではなく、静かな一人の男だった。あの二人は日付変更線を越える前に彼という置き土産をして帰っていた。なぜかはわからないが、彼は望んで自分からおいて行かれたのだ。

 しばらく気を失ったように窓の外ばかりを眺めていた。我に返った時、すべてが夢のように思えてならなかった。横を見ると小さいころ母親が買ってくれたぬいぐるみが横たわっていた。それを抱きしめていると、ますます夢のようで俺は部屋を出た。

母親はこの家にはもうなかった。忙しい人だほんとに。

 朝ごはんは幸いにも用意してくれる人だった。みそ汁は牛丼屋のよりも濃く、身体に流れ込んできた、温かい。さっきでていったみたいだ。そばに五千円が置いてあった。一週間分の食事代だ。

 散歩をして部屋に戻ると、パソコンのディスプレイに一件の通知が来ていた。

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