第4話

 じいちゃんばあちゃんは、顔に偏見の色を変えて次第に彼を認めてくれた。一安心すると、りんたろうのおばあちゃんが口をはさんだ。

「それで、二人は何か月かしらね?」

「まだ付き合ってないよ」

 俺がそう返すと丸田は俺の目を密かににらんでから、口を開いた。

「付き合うつもりですよ」

 ハッピーがワオワオ鳴いた。野球帽のおじさんが目を見開いて腕を組みなおした。

「おいおい、早く結婚なさんな」

 その一声でろうそくに火をともすように笑い声が響いた。

「まぁそんなせかさんでも」

 ニット帽のおじさんもこぼすように笑う。丸田がいるだけで辺りが明るくなる。俺はそこが好きだった。

 じいちゃんばあちゃんを見送って、俺たち二人は浮島のベンチに腰を下ろした。

「良さそうなじいちゃんばあちゃんだな。愛されてんなお前」

「うん、感謝してる」

 丸田から火をもらって煙草を吹く。何度か俺は見たり見なかったりして、懐かしい背tなさを胸にいだいた。

 どちらが先に口に出すのか、それが俺らをせかしていた。だがとうとう上がるものは、その口に挟まれた煙草の煙だけだった。耐えきれなくなった俺は、とうとうそれを切り出してしまった。

「俺たち、付き合うのか?」

 帰ってきた答えは案外に冷淡なものだった。

「お前の心が完全に変わったらな」

 湿っぽい季節の予感が鼻をかすめた。

 俺の生活は困窮を極めていた。話の戸途中でどうしたものかと丸田に尋ねるとあとで紹介するといってかえっていった。丸田と出会ってから日常がメリーゴーランドおまどろみの中にいるよで地面に足がついているのかいないものか。

 家に着くと洗濯物の山。俺は母のぶんと妹のぶんをかき集めて洗濯機に放り込んだ。せわしない音を立てはじめるのを見届けて、積み重なった食器を洗う。全ての家事を終えて、ばっとカーテンを開ける。曇り空の中でめだかのような飛行機が自らを赤く点滅させていた。俺は音楽を聴いてしばらく雲が流れるのを見ていた。好きな音楽の陰に二人の男の顔が噛んでくる。

「もう、別れたのになぁ」

 急に煙草を求めて手を伸ばした。すると恒例の通知音が。やはり彼であった。どうしたと尋ねたら、向こうは早く話したかったらしく。

「お前、ここにいけ」

 その、メッセージの下のリンクを押してみるとどうやらガールズバーというらしくどしても俺に適さなそうな場所だった。

「絶対に嫌だ」

「それは偏見だって。お前ならやれる」

 押しに弱い俺はしぶしぶ承諾してしまった。まぁ夜の仕事だからちょっとは暇つぶしになるだろう、そんなことを考えていた。

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