第二章

第1話

「じいちゃんばあちゃん。俺、彼氏と別れた」

 それを耳にしたじいちゃんばあちゃんは、我が耳を疑った顔をした。なんで、とハッピーのお母さんは心配に眉間を寄せた。俺は大丈夫、大丈夫だからと酒飲みたさを炭酸ジュースで紛らわせて空を見上げた。何が大丈夫なのさ、とニット帽のおじさんは怒った顔で言った。

「騙されてた、って気づいたんだ」

 話に割り込んできたのは、野球帽のおじさんだった。

「まぁ、メールも電話もよこさない男だもんな。俺はな、前からそのことが気がかりだった」

 少し離れたベンチから涼太さんのお母さんの声がする。

「それはいけないねぇ」

 野球帽のおじさんは深くうなずいて、また口を開く。

「彼女をさみしくさせるやつはいけねぇ」

 この話にじいちゃんばあちゃんたちは、納得のいく結末えお見たようでうなずいていつものように世間話を始めた。

「今日は少し雨が降るねぇ」

 しんたろうのおばあちゃんが目をしばたかせながら雨空を見上げた。たしかにわずかに水気を感じる。それでも平気でじいちゃんばあちゃんは話をしている。俺はその話に興味が向かなかったので池にいるカルガモたちを観察した。

 雨は晴れ渡った空に少しの雨雲から光を見せて俺たちに降り注いでくる。鉄のにおいがしたがそれもまた一部の景色となって美しく見せた。鳥や亀たちも気持ちよさそうに見えた。

 彼氏のいない生活は少し物足りなかったが、残り半分は自由を仰いでいた。好きな読書にも集中することができた。散らかった本を片付けて、散乱した服をかき集めて洗濯機にため込んだ。部屋は思いのほか綺麗になり、気持ちも整理がついた気がした。丸田のことはもう少し交際を続けてから、また考えようと思う。

 洗濯機のあるベランダの戸を閉めて、パソコンを開いてみると、丸田から通知が来ていた。

「今何してる?」

「部屋片づけてた」

「お前も部屋片すんだな」

「片づけてるよいつも」

 ここは嘘をついてしまった。ふうん、そうなんだと丸田は軽く流して、次のデートの予約をした。

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