第9話

 日曜日、俺は腹が減って牛丼屋に入った。丸く描かれたカウンターに、丸椅子が固定されている。胸を持つ俺は一人だけだった。券売機でカルビがのっかったメニューを頼む。周りのおじさんたちはくたびれた背広を羽織り、コップのなかにあるものを飲んではため息をつく。そしてスマホを触っているのだが。

「お預かりしまーす」

 耳に記憶のある声に顔を戻すと、つい最近見た男が手を差し伸べていた。

「じゃあ、お願いします」

 丸田は何も言わずにそれを受け取り、奥に入っていた。

「覚えてねぇか」

 熱い茶を飲んで少し一息つく。しばらくして、丸田は俺の前に牛丼を置いた。盆の上に、小さなメモを見つける。気まずい雰囲気だったのでそのままワイドパンツのポケットにしまい込んだ。

 牛丼を食べ終えて、ごちそうさまと告げても丸太は顔をこちらには向けなかった。メモを取り出して開いてみると、電話番号が書かれていた。

「いや、だから俺スマホないんだって」

 半分笑いながら、丁寧に折りたたんでしまう。また、夜の公園に遊びにいくのもいいのかもしれない。

 その日の夜に俺は公園に足を運んだ。気分が良いので酒は飲まなかった。そこには、酔いというフィルターを外したまま丸太を見てみたいという気もあった。何を期待していたのかは自分でもわからないが。

 思惑通り、丸田はやってきた。俺の隣に挨拶を交わすことなく腰をおろしすと煙草に火をつける。

「今日は調子よさそうな顔だな」

「まぁな、ところであの電話番号渡されてもいみねぇし」

 沈黙ののち丸太は笑いだした。ひとしきり笑いあったのち、丸田は真剣な顔をする。なにかと思えばその一言が「パソコン、やろうか?」だった。

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