第2話
それからまもなく夕暮れになり、四時半になった。平常通りみんなは解散。実際、スマホを失くして暇だった俺は居残って純文学を読もうかと思っていた矢先、そういえばいなかった涼太さんのばあちゃんがに出会った。涼太さんっていうのはこのばあちゃんの柴犬でほかの犬から怖がられていることから俺はさん付で呼んでいた。
「涼太さん、こんばんは」
そう声をかけると涼太さんはいつも嬉しそうに笑ったような顔をした。笑ってる、というとばあちゃんは「笑っているように見えるかい」といって笑った。
俺はふと、「スマホ壊れたんです」といった。ばあちゃんは目をしばたかせて「おやまあなんでまた」といった。俺はここで初めて罪悪感を抱いた。
みかん色に染まった日の陽光は公園全域を照らしていた。遠くでさっき乗っかっていた線を電車が走っている。俺は口を開いた。
「俺、家が貧乏でスマホもなくなったんですよ」
俺はこの話を常日頃の会話のように話した。おばあさんはおやまあと言って、予測もしないことを言い出した。
「いくら金持っててもね、泣きながら飯食ってたらしょうがないんだよ」
俺の目頭は熱くなっていた。泣きたかった。
「私の家は旦那が暴力でね、そりゃまあ、私にはしなかったんだけど息子に暴力振るうのさ。おいしいものあげてたけどね、泣きながら食ってたんだよ」
まさか、俺の話から転じてこんな話になるとは思っていなかった。俺は自分を恥じた。
「でもね、離婚した後。そりゃまあ、高いものは与えられなかったけど買ったコロッケをあげたら美味しい美味しいって食うんだよ」
今では幸せだよ、子供にも孫にも恵まれて。と短いような長い話のような不思議な時間だった。
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