マッチ売りの少女とドロシィ
マッチ売りの少女とドロシィ(1)
※『マッチ売りの少女編』はなるべくセリフだけで構成するという縛りを設けて書いたものなので、ほとんど台本形式です。ご了承ください。
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望めば何でも手に入った。
美味しい食べ物、キレイなドレス、高価な宝石、珍しいお花。
みんなが私の言うことをきいた。
使用人たち、学舎の同窓、お父様の客人たちも。
みんなが欲しがるものは、どれも私が当たり前に持っているもの。
だから私は幸せだ。
不満なんてない。
手に入らないものなんてない。
だから私は、しあわせだ。
* * *
「年の瀬も迫っているというのに雪の一つも降らないなんて、私は悲しいわ靴さん!」
「なぜくねくねと身振り手振りつきでそんなことを仰るのかわかりかねますが、まぁ物足りない感じはしますねドロシィ様」
「でしょう? ということで雪の降っているお話を所望するわ!」
「おお、なんという横暴、なんという見切り発車、それでこそドロシィ様。では参りましょう、踵を鳴らしてくださいませ」
「誰が横暴よ! でも行くわ!」
* * *
「到着にございます」
「ここは――」
「ただの町中ですな」
「でも雪が降ってるわね。人もたくさんで賑やかだわ」
「賑やかというか忙しないというか……ともかく、ドロシィ様の要望に最も近いお話のどこかですな」
「そこのアナタ!」
「わたし?」
「ええアナタですわ。アナタ、見かけない顔ね。それにみすぼらしい格好をしているわ。さては貧しくて浅ましい愚民ね!」
「わぁいきなり辛辣ぅ」
「失礼すぎて怒る気にもなりませんな。いっそ清々しい、というヤツです」
「そんなアナタにこの私が施しを差し上げますわ、このマッチを買いなさい」
「カゴいっぱいのマッチだね」
「なんという斬新な押し売りでしょうか。施しの意味を辞書で調べることをおすすめします」
「これはお父様の商会の目玉商品のマッチですわ! とても長持ちでそこらのマッチよりはるかに火力も高い! これ一つで暖炉いらず、明かりにはもちろん湯沸かしから料理に至るまで全て事足りる優れものですのよ!」
「なんだかスゴそうなマッチなのね!」
「それはもうマッチではないような気がいたしますが……」
「でもごめんなさい、わたしいまお金を持っていないの」
「なっ、この私のマッチが買えないと言うんですの!」
「酔っ払いみたいな絡み方ですな」
「わたしはドロシィよ。あなたは?」
「貧乏人に名乗る名前など持ち合わせていませんわ」
「そこをなんとか」
「しつこいですわよ、私の名前が知りたいのならまずはこのカゴいっぱいのマッチを買い占めてごらんなさい」
「うん、それ無理」
「くっ、あっさりですわ……仕方ありませんわね、特別に答えてあげてもよろしくってよ?」
「この方実は話したがりなのでは?」
「私の名前はアンナリーゼ。特別にアンナと呼ぶことを許可してあげますわ」
「特別という言葉がお好きなようですな」
「そこ、さっきからうるさいですわよ!」
「それでアンナちゃん」
「あ、アンナちゃん? アナタ、出会ったばかりで馴れ馴れしいですわよ!」
「その割に嬉しそうですな」
「だからうるさいですわ!」
「アンナちゃんはどうしてこんな年の暮れにマッチ売りなんてしていたの?」
「……あ、アナタには関係のないことですわ」
「関係はないかもだけど、気になるのだもの。教えて欲しいわ」
「別に、そんなの、な、なんとなくですわ!」
「そっかー」
「納得しますの!?」
「ドロシィ様は単純ですので……」
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