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「崎田さん!」


「動くな!」ニックだった。「こいつを殺したくなければ、後ろを向いて両手を上げろ!」


「……」


 私は唇を噛む。ニックの体を凍らせようにも、距離が近すぎて崎田さんの体も凍らせてしまう。


 私は後ろを向き、両手を上げた。


「金石さん……逃げろ……俺の事はほっといて……」


 崎田さんの、弱々しい声。


「ようし。それじゃ自分で目隠しをするんだ。首にかかっているだろう。それを使え」と、ニック。


 アイマスクを首から外しながら、一瞬、私は胸ポケットのスマホを操作する。


 音声認識システム、オン。


 私が VoiceNovel 用にカスタマイズした高精度の音声認識システムだ。小声でも十分拾ってくれる。


「(通話。110番。ボリューム絞って)」


 応答の代わりに一瞬バイブレーターが動作。


『(事件ですか? 事故ですか?)』


 つながったようだ。私はわざとゆっくりアイマスクを着けながら、小声で話す。


「(暴漢に襲われています)」


 それ以上は話せなかった。だが、 GPS でこちらの位置は警察にも伝わったはず。


『(すぐ行きます)』


 警察の応答を聞いて、アイマスクを着け終わった私はニックの方に振り向く。


「ようし。そのまままっすぐ歩いてこっちに来るんだ」


 私はその声を頼りに歩き始める。


「く……くそ……金石さんは、お前らになんか……渡さない……」


 崎田さんがうめき声を上げる。胸がドキッとした。


 その時だった。


 パトカーのサイレンが鳴り響く。思わず私はアイマスクを外す。点滅する赤色灯がみるみる近づいてくるのが見えた。


「×××!」


 ニックが何か母国語で叫んだかと思うと、ナイフを捨てて走りだそうとする。


 が、次の瞬間。


「!」


 ニックの体が前のめりのまま、いきなり路面に叩きつけられた。崎田さんが麻痺した自分の体を無理やり動かして、彼の足を引っ掛けたのだ。

 彼のポケットからスタンガンが転がり落ちる。私は駆け寄ってそれを拾い上げ、スイッチを入れて躊躇ちゅうちょなく彼の体に押し当てる。


 かつての恨み、思い知れ!


「ぎゃあーっ!」


 ニックの絶叫が、夜の国道に響いた。


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