5
車は既にバイパスに入っていた。信号もないし車の流れも速い。いきなりドアを開けて飛び降りるわけにもいかない。
その時だった。
「(金石さん、この車のエンジン、凍らせられますか?)」
耳元で崎田さんが小声で言う。
「(エンジン? 凍るんですか?)」
「(凍ります。エンジンには冷却水が循環してます。あの、ボンネットの先端部分にラジエーターがあります。あの中の冷却水を凍らせてラジエーターを破壊するか、ホースを氷で詰まらせれば、この車はオーバーヒートで止まります)」
なるほど! 賢い!
私は無言でうなずくと、早速ラジエーターに意識を向けた。
しかし、何も起こらない。
「(冷却水は不凍液ですからゼロ℃くらいじゃ凍りません。もっと一気に冷やしてください)」と、崎田さん。
「(わかりました)」
私は意識をさらに集中する。
やがて。
バン!
いきなりボンネットがめくれ上がったかと思うと、そこから白い蒸気が一気にあふれ出してきた。
「……やった!」
崎田さん、ガッツポーズ。
「×××××!」
ジミーが何やら母国語で呪詛の言葉を吐いたようだった。オーバーヒートしようがしまいが、前が見えなくては止まるしかない。しかし、ジミーも考えたようだ。いきなりの急ブレーキで私たちの体の自由を奪い、路側帯に車を停めたところで、すかさず銃を向ける。
「Freeze! and turn around!(動くな! 後ろを向け!)」
私と崎田さんは、そろって両手を上げる。
ふと、崎田さんがちらりと私を見てウインクする。
「言うとおりにしよう。フリーズ……手を、ね」
……そうか!
私は彼の銃に意識を向ける。
「Turn around, now!(早く後ろを向け!)」
焦ったようにジミーが繰り返す。だが、私はそのまま銃を持つ彼の右手を見つめ続けた。
「うぐぁ!」
ジミーが悲鳴を上げる。彼の右手は凍傷になりかけていた。もちろん指がかじかんで引き金を引くことはできない。左手に持ち替えようとしても、冷えきった銃に指が張り付いて離れない。
「We just followed your order to freeze, Jimmy(俺たちはただ、あんたの「凍らせろ」って命令に従っただけだぜ、ジミー)」
流暢な英語で言うが早いか、崎田さんの右ストレートがジミーの顔面を直撃する。
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ドアに近かった私がまず車を降り、続いて崎田さんが降りようとした、その時。
「うぐっ!」
突然、崎田さんが地面に倒れこむ。その後ろからスタンガンを持ったニックが現れた。そして彼は左手で崎田さんの髪の毛を掴み、その頭を無理やり上げると、スタンガンをポケットに入れてナイフを取り出し、崎田さんの首元に突きつける。
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