3

「え、ほんとに空気が凍ってるんですか?」


 私は思わず聞き返した。


 あれから1週間。崎田さんの研究室で様々な実験をした私は、彼にメールで呼び出されてまた研究室にやってきた。


「ええ」崎田さんがうなずく。「サーモグラフィーを見る限り、コップの水そのものが凍ってるわけではなく、外側の空気が一気に冷えてますね」


「……」


 正直、私が一言発しただけで場の空気が凍ることはよくある。つくづく私はそういうキャラなのだろう。崎田さんは続ける。


「ただ、直径30センチくらいの空間が限界のようです。が、冷え方はすごいですね。一瞬で絶対零度近くになりますから」


「!」


 確かにそれはすごい。


「でもね、そういう現象も起こせなくはないです。レーザー冷却を使えばね」


「レーザー冷却? レーザー光線で冷やすんですか?」


 なんか、逆にあったまりそうだけど。


「そうです、気体の温度は気体分子の移動速度に比例します。だから分子速度を落とせば温度も下がるわけです」


「なるほど」


「そこで、特殊な波長のレーザー光線を気体に照射すると、コンプトン散乱と言って、気体分子がレーザー光線に衝突して減速します。かなり大雑把ですが、これがレーザー冷却の原理です」


「はぁ」


 なんだか、分かったような、分からんような……


「たぶん金石さんの能力も、気体をレーザー冷却のようなメカニズムで冷やしてるんだと思います。なぜそうなるのかはよく分かりませんが」


 結局、本質的なところはまだわかってないのね……


 それにしても。


 こうして説明を聞いてると、崎田さんもさすがに専門家、って感じだ。ちょっとかっこいいかも……


---


 次の日。


 私は結構なポカをやらかしたことに気付いた。


 ノートパソコンの AC アダプターを、崎田さんの研究室に置いてきてしまったのだ。ふと思いついてあそこでコードを書いたりしたのがいけなかった……


 とりあえず崎田さんにメールしてみたら、帰り際に自転車で最寄り駅まで持ってきてくれる、とのこと。わざわざ来てもらうのは申し訳ないから、と断ったのだが、帰り道の途中だから問題ない、ということだった。


 待ち合わせの19時になる少し前、私は駅に向かって歩いていた。


 ところが。


 いきなり背後に気配を感じた、かと思ったら、全身に痺れるような感覚が駆け巡った。


「!」


 私はなす術もなく地面に崩れ落ちる。


---

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る