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「え、ほんとに空気が凍ってるんですか?」
私は思わず聞き返した。
あれから1週間。崎田さんの研究室で様々な実験をした私は、彼にメールで呼び出されてまた研究室にやってきた。
「ええ」崎田さんがうなずく。「サーモグラフィーを見る限り、コップの水そのものが凍ってるわけではなく、外側の空気が一気に冷えてますね」
「……」
正直、私が一言発しただけで場の空気が凍ることはよくある。つくづく私はそういうキャラなのだろう。崎田さんは続ける。
「ただ、直径30センチくらいの空間が限界のようです。が、冷え方はすごいですね。一瞬で絶対零度近くになりますから」
「!」
確かにそれはすごい。
「でもね、そういう現象も起こせなくはないです。レーザー冷却を使えばね」
「レーザー冷却? レーザー光線で冷やすんですか?」
なんか、逆にあったまりそうだけど。
「そうです、気体の温度は気体分子の移動速度に比例します。だから分子速度を落とせば温度も下がるわけです」
「なるほど」
「そこで、特殊な波長のレーザー光線を気体に照射すると、コンプトン散乱と言って、気体分子がレーザー光線に衝突して減速します。かなり大雑把ですが、これがレーザー冷却の原理です」
「はぁ」
なんだか、分かったような、分からんような……
「たぶん金石さんの能力も、気体をレーザー冷却のようなメカニズムで冷やしてるんだと思います。なぜそうなるのかはよく分かりませんが」
結局、本質的なところはまだわかってないのね……
それにしても。
こうして説明を聞いてると、崎田さんもさすがに専門家、って感じだ。ちょっとかっこいいかも……
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次の日。
私は結構なポカをやらかしたことに気付いた。
ノートパソコンの AC アダプターを、崎田さんの研究室に置いてきてしまったのだ。ふと思いついてあそこでコードを書いたりしたのがいけなかった……
とりあえず崎田さんにメールしてみたら、帰り際に自転車で最寄り駅まで持ってきてくれる、とのこと。わざわざ来てもらうのは申し訳ないから、と断ったのだが、帰り道の途中だから問題ない、ということだった。
待ち合わせの19時になる少し前、私は駅に向かって歩いていた。
ところが。
いきなり背後に気配を感じた、かと思ったら、全身に痺れるような感覚が駆け巡った。
「!」
私はなす術もなく地面に崩れ落ちる。
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