合戦
「開門」
門に着くと綱成は大声で言った。
綱成の合図と共に、重々しい門がゆっくりと開かれた。目の前には既に敵の足軽が槍を構えていた。
「今ぞ、弓を射かけよ。」
敵の一団に矢が雨あられと降り注いだ。
「よし、敵は怯んだ。突撃じゃ。」
そう言うと綱成は、先頭を切って馬を走らせた。
綱成に続いて、足軽達も我先にと走り出した。そして敵の足軽隊へ切り込んだ。
「勝った、勝った。押しまくるのだ。」
綱成は馬を疾駆させながら怒号を飛ばした。
「殿を討たせるな。」
康俊が背後から檄を飛ばすと、兵の表情も必死なものとなった。
戦況は、北条勢が押していた。綱成も自ら槍を振るい長野勢の雑兵をなぎ倒していった。
「そろそろ引き際かの。」
顔に付いた返り血を拭いながら綱成は言った。
「敵に疲れが見えておる。先程の借りを返すのだ。」
綱成が退却を考えていると、突然しわがれた声が響いた。
敵勢の業正である。
すると、主に激励された長野勢が息を吹き返した。各所で北条勢が押され始め、状況は予断を許さないものとなっていた。
「退却じゃ。」
戦況の変化を感じ取ると、綱成は退却を命じた。
退却を始め、背を見せた北条勢は次々と倒れていった。城内への侵入しようとする長野勢を綱成が城門付近で食い止めていた。
「殿、門を閉めるのでお引き下さい。」
康俊が声を掛けた。
「承知。弓隊、わしが引いたら敵に矢を放つのだ。」
綱成が城内に駆け込むと命令通りに矢が放たれた。矢は侵入しようとしていた長野勢の雑兵に次々と当たった。
「門を閉めろ。」
敵勢の攻勢が緩んだ瞬間、康俊は雑兵に閉門を命じた。
「殿、敵が城門を叩き壊そうとしております。」
すぐに敵の攻勢は再開されていた。敵は大軍のため、続々と新手が繰り出されてくるのである。
「分かった。康俊、敵の頭上から攻撃をするのだ。」
「かしこまりました。」
康俊は、兵達に指示を出した。
一方、城門に迫る長野勢も必死である。幾人かの兵は弓矢を掻い潜り城門まで辿りついた。しかし、彼らが安心したのも束の間であった。
頭上から熱湯や小石が大量に降ってきたのである。もちろん、それらによって死ぬ事はない。だが、突然の事に彼らは驚き逃げ惑った。さらに、逃げ惑う彼らに矢が降り注いできた。北条勢の強硬な反撃に長野勢はたじろぎ、大混乱となった。
「引け、引け。」
後方から業正の声が飛ぶ。
しかし、混乱していた長野勢の退却は非常に稚拙なものであった。
そこをすかさず、綱成と北条勢が襲った。熾烈な攻撃に晒された長野勢は次々と討たれ、辺りには屍の山が築かれる。
少し経つと、綱成は鮮やかに城内へ引いていった。南の城門での戦は北条勢の大勝利であった。敗れた長野勢は撤収し陣に戻っていった。
「何とか退けたが、これからどうする?」
兜を外しながら綱成は言った。
早くも、日が落ち夜も更けようとしていた。
「敵は、力攻めを諦めると思われます。今はとにかく耐える事が肝要。」
康俊が冷静に言った。
「そうだな。兄者が来るまで城を守り抜かねば。」
「さて、勝ち戦の祝宴でもいたしましょう。皆が待っておりますぞ。」
康俊は陽気に言った。
既に宴会の席が用意されており、大勢の侍たちが着座していた。
「そうだな。皆の者、今宵は戦の事は忘れて飲み明かそうぞ。」
「殿、おめでとうござる。」
「上杉など敵ではありませぬな。」
侍たちは口々に囃し立てた。
「頼もしい限りじゃ。さあ、存分に酒を飲んでくれ。」
そう言うと綱成は、手酌した酒を一気に飲み干した。
「お見事。私の酒も受け取って下され。」
康俊は、綱成の盃に酒を注ぎ入れた。
綱成は、注がれた酒を飲むと上機嫌に言った。
「此度の戦はそなたの手柄が大きい。これからも存分に働いてくれ。」
「有り難きお言葉。励みまする。」
「お主も飲め。」
綱成は康俊に酌をした。
「美味い酒でござるな。」
「うむ。わしももっと飲むぞ。」
酒宴の席にいる者たちは皆、顔が真っ赤になるまで酒を飲み続けた。
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