第10話 道の選択肢は多くて面倒くさい

 家を出た。


 何と心地よい言葉だろうか。

 あらゆる肩の荷が降ろされたような気分になる。

 まるで羽毛のように、あらゆる縛りから解放された感覚が、とても心地よく息苦しくない。

 なにより心労に負担がかからないし、かけさせない。

 素晴らしいものだ。

 まさに「自由」と言う言葉はこれの為にあるのではないかと思ってしまう。


「さて、どうしようかなぁ?」


 家に出てきて自由になった身なのだが、これからは一人で生きて行くために様々な課題が残っている。

 その一つに今後の生活拠点となる場所だった。

 生活拠点が無ければいざ金を得るための手段が一つ減る。何より人間と言うものは自然と言う形から隔絶された社会の中で生きる生物。住処を得て活動してお金を稼がなければいけない。

 その為にも活動拠点が必要なのだ。


 だがこう言ったものの、近くの小さな町で活動するにも確実に不便性が発生するだろうし、実家からの余計な干渉が発生する可能性もある。

 別にあの男が干渉しなくても、カエサルあの兄達なら容赦なく干渉はしてくるだろうと考えるし、挙句の果てに変な奴でも雇われてしまうと俺の求めた平穏が無くなってしまう。


「まぁ、そうならないために頑張ろうじゃねぇか!」


 さて、じゃあ活動拠点を本格的に考えた方がいいよな!

 一応、実家から飛び出る前に付近の町や大きな都市を調べて見ていたためにさほど大きな問題点はない。

 できる限り貴族の干渉が少ない権力が独立した町や都市に生きたいのだが、そうなると王都か迷宮街、または冒険者たちの街に行かなければいけない。だがここからは遠い。そう易々と軽い気持ちで行けるものではない。


「となると………ここから近いとなると、商人たちの街かなぁ」


 あそこなら人も多くいるし、商業ギルドや大きい冒険者ギルドもある。正直言うとあそこで稼いで最低限の生活ができる様になれば、その街を出て行けばいいだけの事。

 

「よし、商人たちの街に行くか!」


 せっかくの自由。

 残りの人生、どう生かすのも俺の勝手。

 ならば、社会束縛から解き放たれた俺は自然自由にやらせてもらおっと。


 そう思い感じた軽やかなステップを踏みながら整地された道を歩いていく。誰の邪魔も無く束縛も無い自由の掛道と言うものはこれ程、足が軽くなる物なのか。

 あらゆる縛りを無くした俺をただ何もない無法地帯に制限なしに解き放つという事はいわば牧場にライオンを解き放つのと同義、何をしても許されるこの世界で俺はただ静かにその道を歩き続けた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


野原を歩き森を抜け、よく分からない物を見かけながらも俺は静かに道を歩き続けていると、大きな町が目に入る。


「あれが商人たちの街かな?」


 遠くから見える程、大きな町。

 それを象徴するような長蛇の人の列と、それを生み出している一つの街を囲む巨壁が目に入る。

 今からこの街に入るという興味と好奇心がくすぶられるように、ワクワク感が湧きあがる。


「にしても列が長いなぁ………」


 だがその好奇心を打ち消すように俺の目の前に並んでいる長蛇の列が胸の奥底から気が滅入る気持ちが沸き上がる。

 もしこの列に並ぶとなれば、確実に今日中にこの街に入れないだろうし何より待っている間にも徐々に俺のやりたいことはできなくなっていく。


「どうしよう」


 できることなら時間は無駄にはしたくない。

 一刻も早く、街に入りあの人たちの届かない所に向かいたいのだが、それは俺だけでは無い。

 ここに並ぶ多くの人たちも似たような事を思っているはず。

 でなければこのような長蛇の列を並ぶわけが無い。


 となると、やはり待つだけだろうか。

 だが我慢と言うのならしょうがない。

 俺も待とう。

 そうでもしないと俺の抱いた願いは聞き入れてくれないのなら、静かに問題を起こさず待ち続けよう。


「次、きみ」

「はい?」


 すると声がかかる。

 一体、何かと思い、僕はゆっくりとその顔を向けると一人の衛兵が立っていた。


「な、何か?」


 急に呼び止められたことに内心、驚きながらも俺は衛兵の方に顔を向け返事をすると、衛兵は何も言わずただこっちをじっと見てくる。

 な、なんなんだ?


「え、えーっと」


 まったく話さない衛兵に俺は戸惑いを隠せないまま、俺は衛兵の顔を見続ける。

 何かを言って貰わなければ、こちらの心臓が持ちそうにない。


「大丈夫だ」

「⁉」

「通ってよし、良いぞ」

「え、えっ⁉」

「何をしている早く行け、この列派に付いて行けばいいから早く行け」

「え、ですけど、何も貰って」

「そう言うのはいらんから安心しろ」

「え、え⁉」


 急に話しかけられたと思ったら、突如の両省の言葉。

 一体、それらの一連の作業に関して何の意味があるのかと言う気持ちを持っていたのだが、俺のそんな気持ちなんて関係なく衛兵は後ろにいるものにへと移る。


「ほ、本当に何だったんだ………⁉」


 嵐のように去る衛兵に俺はその心臓とドックンドックン、と激しく鳴らしながら今置かれている状況を知ろうとする。

 だがそんなことを思いながらも俺は静かに流れゆくその列に身を流した。

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