第9話 あばよ~実家~!!(モンキー・ほにゃらら風の怪盗)
かつての家族たちに家出宣言を終えた僕は、準備していた荷物をすぐに纏め上げ、家出の準備を整える。
バックの中に入りきらない程、たくさんの荷物を詰め込み、出る準備をちょくちょくと進めて、今までの関りを断絶するように最低限と最大限を詰め込み、感謝の意を込めて部屋を綺麗し、家を侮辱するようにごみ箱に捨てていく。
コンコン、
「ん? 誰?」
すると、僕の部屋の扉が叩かれる。
『坊ちゃま。カズハです』
「………カズハ?」
僕が返答すると、扉は静かに開かれ扉の先からは見慣れたメイド服を着ていたカズハの姿があった。
「なんで、来たんだい?」
僕の部屋に入ってきたカズハは、先程までの明るい表情はそこには無く、影がかかり、不安そうな表情を向けていた。
「坊ちゃま」
「なんだい?」
「坊ちゃまは本当にこの家を去るのですか?」
「………うん。勘当されちゃった以上、この家を出ないといけないでしょ?」
「本当に、本当に出て行ってしまうのですか⁉」
「うん」
何度も何度も僕に「出ていくのか」と確認してくるカズハに対して僕は、無駄に言い訳をするわけでもなく、変な風に誤魔化すわけでもなく、ただ静かに淡々と答える。
「………本当にそうなんですね」
「それ以外の解答は欲しいのかな?」
「……いえ、坊ちゃまならそう言うと思いましたから、大丈夫です」
大丈夫です、か。
大丈夫では無い癖に、本当に優しい言葉を投げかけることができるとは、本当にカズハは、強いな。
震える声音でさえも、カズハはその真剣な眼差しで僕のことを見てくる。
必死に拳を握り、己の抱く本音を我慢して、尚僕の事を送り出そうとしてくる。
じゃないとこうして何度も確認は取ってこない。
確認を取るという事は本当の気持ちは定まっていない証拠。
だから、カズハは最初から僕に向かって質問を投げかけているのではなく、己に自問自答していた。その結果、決断を決めたんだ。
僕には到底、
「そうか」
できない。
「坊ちゃまがそうしたいのでしたら、ラサイヤ家従者一同応援いたします」
「………そう」
あぁ、なんといい所だろうか。
生まれ育ち生きて来た僕の家には血の繋がりが無くとも家族はいた。そう感じられた。
その思った感情だけが、嘘偽りない今の僕の気持であった。
血に固執した父親。
血に縋りつこうとする長兄。
密かに長兄に嫉妬心を覚える次兄。
あらゆることに興味を示さない
そのよな血筋の家族であろうとも、このような温かい人がいると感じられる。
「ありがとう」
「え?」
「ありがとう、こんな僕を愛してくれて」
「………」
恥ずかしさゆえか、僕は自分の顔を背け、荷物を纏める振りをする。
多分、鏡を眺めれば僕の顔は林檎の様に赤く染まっているだろう。そうでなくても、僕はこう言う言葉を吐くのは性に合っていないと分かっている。
嫌味とかの毒を吐き続ける僕には、人に優しく差し伸べる様な言葉なんて胡散臭い詐欺師のような雰囲気を持っていることもさらさら招致している。
「いいえ」
「え?」
「いいえ、坊ちゃまが私達の事を愛してくれたから、私達も坊ちゃまの事を愛したのです。ですから、そのような事を言わないください」
「………」
そうか。
そんなことか。
僕は彼等に愛してもらえたのではなく、愛したからか。
心の底からそのような言葉が漏れ、包み、瞳の奥を熱くさせる。
「そういうことか」
「ん? どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
これ程、僕が愛されていたとは。
これ程、他者から愛を受けていたとは。
何という事か、目に見えぬものはその存在に気付きにくいとどこかの本で読んだ覚えがあるが、こうして実感してみるとひしひし、と感じる一面がある。
「カズハは、僕が抜けたこの家でも働き続けるの?」
「はい! 多分その気持ちは、他の者たちも一緒だと思います。例え坊ちゃまがいなくなっても我々の住み育ち働え、仕えるだけですから」
「へぇ、そうなんだ」
「えぇ、そうなんです」
「そうか………少し、寂しいな」
「!!」
「……どうした?」
「い、いや、坊ちゃんが弱音を吐くとは……」
「………」
驚いた表情を向けているカズハに一瞬、何かと言う疑問が込みあがったが、彼女の言葉に昨比度までの感動的な空気は消え去り、僕の中にはほのかな怒りが感じられた。
端的に言うとイラつき。
だがこれがカズハと僕のやり取りが僕にとってはの小さな幸福であり、温かさだった。
「じゃあ、もうそろそろ行くから」
「分かりました」
荷物を纏め、屋敷の裏にある使用人用の通路から裏口へと出ると、そこには多くの使用人たちが待っており、僕がこの家を出るのを今か今かと思わせるかのようにその表情に今後の心配を見せていた。
そんな彼らに僕はそう言うと、僕の横に立っていたカズハは静かに立ち位置を変え、僕の前に立ち、静かにそう宣言する。
カズハのその言葉を聞いた辺りの使用人たちも静かに彼女に続くように、行ってらっしゃいませ、という次々とそう言ってきて、クリスが僕んお前に立つと。
「いってらっしゃいませ、坊ちゃま。是非とも広い世界をその
そう言い、頭を下げる。
そしてクリスに続くように、カズハを始めとする使用人たちは行ってらっしゃいませ、というと、皆一斉に頭を下げた。
「うん、行ってくる」
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