第8話 勘当 ~それは自由の掛道か~
「駄目だ!」
だが、今この場において支配下に置いているマリアンヌ姉さんの事を無視するように、一つの声が邪魔をする。
「ほう、それは何ででしょうか? ルシウス兄さん? いや、次期当主とでもいえばよろしいのですかな?」
「ええい、黙れ! 次期当主の件は今この場において言うな!」
ふぅん、さすがにこの場においては次期当主の話はしないか。
まぁ、周りには自身の敵しかいないからな。そう易々と口にできないのだろう。
けど、一つだけ飲み込めない。
それほどの冷静さを持っているのであれば、この話に無理やり割り込んでくることなんてなかっただろうに。藪蛇が出ても何も言えまい。
「ルシウス兄さん? 何で、話を遮るようなことを?」
ほら、来た。
藪蛇どころか、猛毒を持った蛇が。
その証拠に、マリアンヌ姉さんに話しかけられたルシウスは一瞬だけ体を強張らせ、動悸を酷くする。
「な、何だっていいだろう」
「いいえ、きちんと説明してください。次期当主候補が何一つ理由なく物事を進めるのは宜しくないかと」
「ぐっ」
ほら、見た事か。
猛毒を持った蛇に噛みつかれた小鳥は一瞬にして、その首を見事に引きちぎられる。
「………何も説明がないのであれば、先程、愚弟から提案された内容をそのまま、王家に提案いたします」
「っ! それは待ってくれないか!」
「では、ご説明を」
マリアンヌ姉さんのその堂々とした物事の進め具合にどことなく見惚れる所があるが、そんな視線を送っていたら次の標的が僕になる。
「っ、ベルの言った提案はどちらにせよ王家からの反感は逃れられない。我がラサイヤ家はマンハッタン家から権力を取り戻し、かつての繁栄を取り戻すこと。だが、ベルの言った案はその繁栄を先延ばしにする事になります!」
「‼」
こいつ、痛い所を突いてきやがる。
事実、この家の掲げる目標と僕の掲げた内容は全くの逆のものと言ってもしょうがない物だと思っている。
僕の掲げた内容は、まさに、僕優先の延命治療であり、最終的には両者とも崩壊する未来しかない。
生き残るのは僕のみ。
マンハッタン家だとかラサイヤ家だとか、そんなことを全く考えていない内容なのだ。
その内容を察したルシウスは、両家崩壊装置を止めようと口を挟んだ訳だ。
だが当主でもない人間がそんなこと言っても信ぴょう性が無い。
「ならば、マンハッタン家の血族から権力を取り戻すためにはマンハッタン家の血さえも利用すればよろしいかと思います! その為にも一刻も早く、婚約を済ませるべきです!」
「うむ、それに一理あるな」
「………」
ちっ、本当に余計な一言だ。
シリウスの言葉に真っ先に飲んだのは、この婚約を持ってきたマリアンヌ姉さんではなく、まさかの
ここで、絶対的な権力を持つ男が賛同するとなれば、支配下を広げているマリアンヌ姉さんに対抗できる。
そうなれば、僕が提案した内容なんて意味がなくなるようなもんだ。
「では父上、今すぐに王家に連絡を入れ婚約をすべきだと」
「うむ、確かにそうだな」
それにこの男は、シリウスたちのこと溺愛している。
彼らの言い分と僕の言い分、どちらかが重いかと言われれば確実に彼らの方が優先される。
今までもそうだったし、今もそうだ。
既に確定された現実を捻じ曲げる事なんてできない。
「では婚約を破棄します」
「なっ⁉」
もう勝てない。
もう選べない。
そう思った瞬間、僕の口からそう漏れた。
「愚弟。もう一度言いなさい?」
「婚約破棄です。聞こえないならもう一度、婚約破棄ですっ! 僕は僕の提案に乗ってくれないのなら婚約を断り、破棄し、この家を出ていきます!」
流暢な口ぶりで僕がそう叫ぶと、シリウスやカウトゥーレ、マリアンヌ姉さんは驚いた表情を見せていた。
「そのような事をして許されると思っているのかぁ!」
「知りませんねぇ! 僕の勝手ですから! 今まで自由にさせていた着けが返ってきたとでも考えてください!」
これ以上やってられるか。
果ての無い怒りが、僕の事を支配してくるが、そんな事なんて放り投げる感覚で僕は口を開き叫ぶ。
その叫び声は、テーブルの先にいる男に響き、彼の叫び声なんて無視し振り合腹いように彼の怒り心頭、柘榴の様に赤い顔を睨みつける。
「その言葉の意味を理解できているのかぁ!?」
「もうその言葉は聞き飽きたんですがねぇ。もう嫌でしょ、こんな使い物にならない息子をもったあんたは、自信の思い通りに動かない息子を息子と思わない人は、あんたの野望を突き進めるといいぜ!?」
今までの欲望と不満を吐き出すかのように、淡々と流暢に語る。
ここまで語ってしまうと、柘榴頭の男の顔が更に赤くなり、もう爆発して辺りに柘榴の果肉でも散らすのではないかと思う程、顔の節々には太い血管が浮かび上がる。
「さぁ、早く言えよ。あんたが言いたい言葉って奴をよ‼」
「貴様ぁ‼」
パシン!
「「「‼」」」
すると辺りは乾いた空気の音が響く。
音の中心地には、マリアンヌ姉さんがいてその両手は合わせるかのように置かれていた。
「なに? マリアンヌ姉さん」
「黙りなさい愚弟。父上、少し平静を、ラサイヤ家当主としての威厳を損ないます」
「む………分かった」
マリアンヌ姉さんが話の途中で挟まり、僕を静かにし、あの男の平静を取り戻させると、何事も無かったかのような表情で僕の方に向いた。
「愚弟」
「なんですか?」
「貴方を勘当にします」
「な、マリアンヌ! 勝手に!」
来たか。
求めていた言葉。求めていた声音。
それが今、僕の目の前で告げられる。
「父上、この話自体、相当前から決まっていたこと。あとはどの時に出すのかを我々は迷っていたのです。ですが、今このように条件が決まりました。でしたら、今すぐにでも勘当にするべきです」
まさか、そんなに早く決まっていたなんて思ってもいなかった。
だがこれで僕の中では条件が決まった。
「っ‼ だが、婚約の件は………」
「その件もこちらに考えています。愚弟」
「はい」
淡々と進められる言葉に僕は平静を保ちながらもマリアンヌ姉さんの言葉を聞く。
「貴方には、王家との婚約を進めて貰います」
「⁉」
「当然、愚弟が望んだ提案を飲みます。我々もきちんと目的を持っていますから、ですから条件です」
「………なんでしょうか?」
「結婚は絶対。婿入りと言う形にしてください。もし、そうでなければ婚約を認めません。良いですね?」
「………分かった。なら先程の提案にもう一つ条件を付けても良いですか?」
「許しましょう」
「僕の捜索に関してはラサイヤ家は一切、手を出さないで欲しい。ただそれだけです」
「「「!!?」」」
僕がそう宣言すると、男性陣は驚き困惑した表情をしていたが、当の
よし、これで無闇にラサイヤ家は王家への介入が難しくなった。
謀略が得意な男性陣にとっては辛いモノだろう。
だがただの友人として関わっているマリアンヌ姉さんには何一つ痛くない。
僕が望んだ条件を飲んでもらった時点で僕の勝利は確実な物に変わると、男性陣はぶつぶつと何かを言いながら顔を伏せており、マリアンヌ姉さんは、何も言っていないがその頭の中では様々な謀略をしているのだろう。
だが僕の出した条件がある限りラサイヤ家は、何一つ政治的、権力的な優位を取れるはずがない。
こうして、マンハッタン家との距離が更に引き延ばされるだけだ。
「では、勘当された身です。これ以上ここに居るのは宜しくないでしょう。僕はこれで失礼いたします」
精々、地獄を見ろ。
そんな言葉が漏れそうな中、僕はそう言いながら、席を立ち、豪華兼らな食堂を抜け出した。
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