第3話 Skill発表なんてなければよかったんだ

 Skill発表から数日………、


 それからは大変だった。

 謎の数値を叩き上げ、僕の存在が一際有名となり、多くの貴族の人たちからは謁見や会談、ましてやお見合いと言った色んな人たちと会うようになった。

 教会の人、研究所の人、王族、王族と癒着がある貴族たち侯爵、伯爵、子爵、他にも多くの人たちからも会った。


「はぁ」


 さすがにそのようなことが連続に起これば心身とも疲れ、休みは簡単にとれはしない。

 僕は、せっかく取れた休みを、かの毒親たち父や兄たちに使われるよりは昔のように一人でいたかった。そのため、僕はラサイヤ家屋敷の裏庭に小さな倉庫があり、そこで一人でゆっくり過ごしていた。


「本当に何なんだよ、もう。前までは僕の事なんて見ていなかった癖に」


 僕は今まで見てくれもしなかった親や貴族、同年代の子供たちの顔を思い出しながら、不貞腐れた顔で座り込む。


 『珍しい』『記録に無い』『是非』『私共との関係を』『天才』『我が子との婚約を』

 このような多くの依頼、要求、それらはいつも僕自身を見ておらず、僕の周りに付きまとっているこの力を見ていただけだった。


 気持ち悪い。


 付きまとうこの力も、その力に纏わりついてくる人たちも気持ち悪くてしょうがなかった。

 そんなにこの力が知りたいのかと、そんなにこの力が欲しいのかと、どことなく吐き気のするような感覚だけが残っていた。


「坊ちゃま?」


 すると、小さな倉庫の扉が開かれ一人の侍女が入ってくる。

 見たところ、シンプルなメイド服を着ており、顔もパッとしない顔をしていた女性が僕のことを見つめながら心配そうな表情を向けてやってくる。


「何? というか誰?」

「誰!? それは酷くないですか!? 坊ちゃまの使用人のカズハでございます!!」

「分かっているよ」


 僕の前にいる侍女は、そう名乗りながらその腕をブンブン振り始める。

 それに知らない、と言うのは嘘に決まっている。だが、カズハは顔を真っ赤にしならも僕に向かって近づいて来る。


「でしたら、なぜ坊ちゃまはそんな意地悪を為されるのですか!?」

「じゃあ逆にお前が僕にいじめないという保証がないじゃないか」

「そうですけど………」


 僕がカズハの言葉を見事に論破すると、凹んだチワワの様にしょんぼりとした表情を見せる。


「ふっ、嘘だよ」

「あっ! また揶揄いましたね!」

「ごめんて」

「む~、駄目です~!」


 僕がカズハのことをちょっぴりと揶揄うと、ハリセンボンの様に頬を大きく膨らませぽかぽかと僕の体が痛まない程度に軽く叩いて来る。

 僕の体に痛まない程度なので、タンポポの綿毛の様に軽いグーパンは優し気な花の感覚に包まれる。


「満足した?」

「えぇ、少しだけです」

「そうか………」


 少しだけかぁ。

 僕はそんなことを思いながらも、ふと嫌な気持ちが無くなる。

 いつの間にかカズハが僕の気持ちを収めてくれたようだった。


「カズハはなんで、こんな所に来たの?」

「あっ! 坊ちゃまをお呼びに来たんです!」

「ふぅん、なんで?」

お父様カエサル様がお呼びでございます」

「………ちっ、今になって僕に目を向けるとか、あのクソが」(小声)

「む、何か言いましたか?」

「なんでも」


 僕はカズハの言葉に小さく呟きながら、すっとその場所を立ち上がり、お父様と呼ばれる男に会いに行こうと準備を始める。


「ぼっちゃま?」

「なに?」

「どうかしましたか?」

「なんでも、そんな事よりも父さんが呼んでいるんでしょ? 叩く行こうよ」

「わ、分かりました!」


 僕がそう言うとカズハ勢い良く立ち、スカートについている藁を落とすと僕に付いて来る。

 それにしても、あの男が呼ばれるとは………嫌でしかない。

 僕の事なんて目も向けなかったのに、今頃、呼び出すとかどうせしょうも無い事を言うに決まっている。


「はぁ、嫌だな」

「そんなことをおっしゃっても何も変わりませんよ。それにカエサル様は坊ちゃまに期待されていましたよ」

「期待? 政治に利用しやすいの間違いじゃないの?」

「そんな事を言わないでくださいませ」

「それにあの人がこんな愚息よりも兄さまたちの方が十分愛しているに決まっているだろ」

「そんなことを言わないでください!」

「!!」


 僕がいつもと同じように愚痴を吐き続けていると、カズハが大きな声を上げる。


「坊ちゃまは坊ちゃまです! ルシウス様やカウルトゥーレ様、マリアンヌ様とは違います! 坊ちゃまは坊ちゃまです! 例え神が坊ちゃまの敵になると言うのなら私は坊ちゃまの味方になります!」

「………そう、けどその言葉、そんな易々と言わない方がいいよ」

「す、すみません!」


 僕はそう冷たくあしらうが、内心、嬉しかった。

 味方がいる、その言葉は懐かしくも未だに僕のことを優しく包んでくれる言葉だった。

 嬉しかった。

 温かい言葉が僕のことをきちんと見てくれる。そんな気持ちを心なしか思いながら、歩を進める。


 必死に、彼らの温かい言葉に自惚れない、僕はそう務めてきたのだから。

 心の中ではふわふわと浮いているが、そんな事がばれない様に我慢しながらも、父のいる部屋にへと向かった。

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