第71話 テル君は語った。
時刻は午後十二時三十分。俺と雲雀さんはに校内の中庭にいる。
中庭にはメインステージと多数の生徒出店の屋台がある。テーブルや椅子もあって食事をしながら出し物を見ることができる。
今メインステージでは生徒がバンド演奏をやっている。黄色い歓声が飛び交い盛り上がっている。
「和希。美味しいたこ焼きだよ。はい、あーん」
中庭の盛り上がりをよそに、同じテーブルの隣に座っている雲雀さんは俺にたこ焼きを食べさせようとしている。
「雲雀さん。大胆ですね。見られてますよ」
「気にしない気にしない。はい。あーん」
まぁいいけど。あーん。パクリ。モグモグ……。
「おお、なかなか美味しい」
雲雀さんは楽しそうだ。
「ふむ。俺には一度もそんな事してくれなかったな。手も握った事なかったのにな」
何故か同じテーブルにテル君がいる。あなたは俺のお友達ですか?
「私も女の子として成長してるの。ゴメンね」
「そうか。俺もそんな事をしてもらえていたら間違いを犯さなかったかもな……いや、どんな理由があろうが俺が全て悪い。雲雀悪かったな」
テル君は頭を下げた。
「もういいよ。彩子より私に魅力がなかっただけだから。とは言ってもテルを好きになる事は二度とないけどね。私は和希一筋だから」
「俺もおまえを好きになる事はないな。もどきだしな」
「そうね。私は普通の女の子。清楚なんて言葉は似合わない」
雲雀さんとテル君、なんか仲良しだねぇ。やきもち焼いちゃう。
「あの〜。テル君はどうして二股したの?」
「ん? そうだな。和希君は知っていた方が良いかもな。俺のような馬鹿な事なしないと思うが知識はあった方がいいな」
そしてテル君は話してくれた。
◇◆◇
テル君は高校最後の夏の甲子園目指し必要以上の練習をしていた。そのオーバーワークにより足を疲労骨折。大会には間に合わないと診断された。
今年は甲子園に行ける可能性があったのでテル君はショックで落ち込んだ。
雲雀さんの前では心配をかけないように元気なふりをしていたらしい。雲雀さんは忙しく毎日会えずにすれ違っていた。
ある日テル君が部活が終わり、部室で一人泣いていた。心が折れかかっていたらしい。そこに足楽彩子が現れ慰めてくれた。
その日を境に彩子は雲雀さんのいない時に必ずテル君の前に現れていた。
テル君は彩子の優しさに雲雀さんから彩子へと心が移っていった。
疲労骨折は大会前に治った。でもみんなに迷惑はかけたくないので補欠で参加。そして一回戦負け。
その後、彩子が一人で部屋に遊びに来た時に想いを伝えた。そして雲雀さんと別れると。だけど彩子は、
『雲雀が悲しむ姿は見たくない。私は二番でいい。都合のいい女の子でいいよ』
と言った。そして彩子とキスをしようとした時に雲雀さんが部屋にバーンと入って来た。
◇◆◇
「——そのあとは和希君も知っているよね」
「はい」
「心が弱っていたとは言え、俺は目の前の優しさに頼ってしまった。雲雀にはカッコ悪い姿を見せたくなかった。最低だよ」
「そうですね。最低です」
「和希君ははっきり言うね。だけどありがとう。キミが友人でよかったよ」
いや。だからテル君。俺は友人と思ってないって。……と言いたいけど言える雰囲気じゃないな。
「テル。あなたは誤った選択をした。だけど私はあなたを許します」
雲雀さんは優しい口調で言った。
「私達は未熟な存在。誰にだって間違いはある。完璧な人間なんていない。間違いを反省してその後どうするかが大事じゃないのかな。テルは新しい彼女が出来たらまた浮気をするの?」
「いや。二度としない」
「うん。そうだね。頑張ってね。それからママ離れもしないとね」
「ぐぬっ。分かっている。今卒業だ」
てれれ、てってって〜。テル君は大人になった。たぶんね。
話がひと段落してすぐにミスコンが始まった。
「ミスコンって高校では珍しいですよね」
俺は雲雀さんに聞いた。
「そうね。私が去年生徒会長の時に提案して始めたの。予想以上に盛り上がってね。だから今年も継続してやってるの」
「へぇ」
雲雀さんは生徒会長だったのね。
「で、去年の優勝は誰ですか」
「私だよ。発案者だったから出場したけど、優勝しちゃった」
雲雀さんは俺に微笑みながら言った。うん。そうだろうとは思っていたけどね。
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