第70話 和希は蚊帳の外。
雲雀さんとテル君が真っ二つに割れた人混みを通り抜け、俺と足楽彩子のそばに来た。
「はい、みんな解散。分かってると思うけど今後足楽彩子に何かよからぬ事をしたら、私の持てる全ての力を使ってその人の人生を終わらせるからね」
優しい口調で雲雀さんは言っているけど、内容がえげつない。雲雀さんの力って何? ボクしらないよ。頼もしいですね。
野次馬は静かになり散り散りに解散していった。俺が何を言っても聞く耳を持たなかったのに……。雲雀さんスゲー。
そして俺と雲雀さん、テル君、彩子の四人になった。
「まったく。お馬鹿な行動もここまでくると同情するよ」
雲雀さんはため息をはいた。
「……誰が『助けて』って頼んだ?」
「え? 彩子。あなたを助けたつもりはないよ。和希を助けたのよ。私たちの巻き添えになってたからね」
「ふむ。そうだな。彩子。おまえを助けた訳ではない。そんな気持ちは微塵もない」
いや、テル君。なにしれっとこちら側になってるの? キミ敵だよね? 雲雀さんと和解したの?
ちなみにテル君は野球のユニホームから制服に着替えている。顔も洗顔で洗ったのか艶々だ。
「はっ。そう言う事。やっぱり二人はヨリを戻したのね」
彩子が挑発している。メンタルが強い子だ。
「それはない。俺は本物の清楚さんが好みだ。おまえ達のような清楚もどきは二度とゴメンだ」
「私は和希一筋。昔はテルを好きだったけど今はそんな気持ち微塵もない。二度と好きにならない」
ひばりしゃん。ボクもだいしゅきだおぉぉぉ。
雲雀さんの言葉に嬉しすぎて泣きそうになった。
「それにな彩子。もう雲雀に関わるのはやめておけ。おまえは雲雀のお父さんに利用されていただけだ」
「利用? 何の事? 私は自分の意思でやっていたのよ」
「そうだな。それを利用されたんだ。考えてもみろ。溺愛している娘を苦しめている人間をあの人が放っておくと思うか?」
「うっ。それは……」
「娘につらい思いをさせてでも俺と別れさせたかった。それが叶った。だからあの人は穏便に済ませている。これ以上やると彩子、おまえだけではなく両親、いや、親戚まで不幸になるぞ」
いやいやいや。テル君そんな大袈裟な。おじさんはそんな事しないでしょ? ハッタリだよね?
「くっ」
「ま、そう言う事だ。もうこれ以上はやめておけ。それに今なら卒業まで何事もなく過ごせる。その後もな」
テル君が仕切っている。これが本来の姿か……。雲雀さんが惚れるのも分かる気がする。
「ふんっ。分かったわよ。もうあなた達に関わらないわよ。幼なじみも解消。これからは赤の他人。二度と話しかけない。さよなら。バイバイ」
そう言って足楽彩子は去って行った。
「ねぇテル」
雲雀さんが微笑んでいる。この笑顔は怒ってる。
「どうした?」
テル君は気付いていない。爽やかに返事をしている。
「私のお父さんはそんな事しませんよ?」
「あ、あれはハッタリだ。仕方ないだろう。強大な力を示さないと諦めないだろう。おまえも和希君と平和にラブラブしたいだろう」
「……まぁ。私達の事を思って言ったのなら許してあげる」
テル君は『ふぅ』と胸を撫で下ろした。よかったね。
そして俺は蚊帳の外。幼なじみの間に入れるはずもない。過ごした時間が違いすぎる。
う〜ん。これにて一件落着かなぁ。最後はまったく関わっていない。寂しい……。
「あの……和希さん」
声がした方を向くと見た事のない超絶美少女がいた。どちら様ですか?
「えっと……誰?」
「あ、私です。伊藤花です。お久しぶりですね」
「はっ、花ちゃん⁉︎ え? は? メガネは?」
「コンタクトに変えました」
えぇぇ。マジですか! 二つおさげの三つ編みもやめて、ゆるふわセミロングの黒髪になってる。
こ、これは……本物の小柄な清楚美少女だ!
「えっと……お邪魔でした?」
「いや、——って、今の騒動知らないの?」
「騒動? 私は今までミスコンの打ち合わせで生徒会室にいましたから……何かあったのですか?」
「いや、何でもないよ。そんな事より花ちゃんは転校してきたばかりだよね? ミスコンって出れるの?」
「欠員が出たので生徒会長さんにお願いされて、それで断れなくて……」
「へぇ。そうなんだ。で? どうしてここに来たの?」
「えっと、トイレに……」
花ちゃんは顔を真っ赤にして答えた。
「和希。私達のこと花さんに紹介はしないの?」
「あ。そうですね。花ちゃん。こちらは三年生の徳川雲雀さんで俺の婚約者です」
「こっ、婚約者さんですか⁉︎ 高校生なのに凄いですね。あ、好きな人って雲雀さんの事なんですね。おめでとうございます」
「花さん。はじめまして。和希の婚約者の雲雀です。仲良くしてね」
「はい。よろしくお願いします」
花さんは微笑む雲雀さんに深々と頭を下げた。
「そしてこちらは……」
はて? テル君はどう紹介しよう。う〜ん。
「花さんはじめまして。
ちょっと待てテル君。キミとは友人でも親友でもないよね? なに言ってるの?
「花さん。ミスコン頑張って下さい。応援しています」
そう言ってテル君は花ちゃんに手を差し出す。
「ありがとうございます」
と言って、花ちゃんはテル君と握手した。一瞬顔が歪んだのは気のせい?
「あ、あの。そろそろ戻らないと……」
花ちゃんの困った顔に気づきテル君は握手をやめた。
そして花ちゃんはお辞儀をしてトイレに行った。俺の隣にいるテル君は手をふり見送る。
「和希君」
「断る」
「まだ何も言っていないのだが?」
「テル君が何を言いたいのか分かるよ。浮気者に花ちゃんとのキューピットにはなってあげません」
「それは反省している。あんな間違いは二度としない」
「じゃあ俺に頼らず一人で頑張って下さい。そもそも俺はこの学校の生徒じゃないから手伝えません」
……まぁ、テル君は浮気さえなければ凄くいい奴みたいだし、意外と花ちゃんとお似合いかもね。
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