第61話 続・二人きりで一夜を過ごす。
リビングから恋人手つなぎで雲雀さんの部屋に来た。そして寝室へ。十一月なのに体が熱い。
雲雀さんが先にベッドに入る。そして隣のスペースをトントンと叩き『和希。おいで』と俺に微笑みながら言った。
俺は勘違いしていたのか? どっちなんだ? 分からない。
『し、失礼します』と緊張気味に言って雲雀さんの隣に寝た。クスクスと笑い『和希なに緊張してるの〜。かわい〜』と言われた。
『うっでまくら、うっでまくら』と雲雀さんは楽しそうに言った。言われるがまま腕枕をした。
「幸せだなぁ」
「俺もです」
俺を抱きしめ胸に顔を埋める雲雀さん。理性が飛びそう。良いのか? 指一本触れないって誓ったけどすでに触れてるよ。
まだ分からない。雲雀さんに嫌われたくない。どっちなんだ? くっ。
「雲雀さんっ」
「は、はい」
「えっと、のどが渇いたので何か飲み物を飲んできます」
「……うん。分かった……」
俺はベッドから出て一階の台所へ——。
◇◆◇
冷蔵庫から牛乳を出しコップに入れ、一気に飲み干した。
ぷはぁ。はぁはぁ。……俺ってヘタレだ。雲雀さんの美々しさに怯んでしまった。
ベッドから出た時、雲雀さんは寂しそうにしていた。つまり……そう言うことだった……。
そうだよな。お互い子どもだけど子どもじゃない。二人で一夜を過ごして何もないってありえないよな。
「……和希」
台所の入り口に雲雀さんがいつの間にか立っていた。
「雲雀さん……えっと……」
「ねぇ和希。私、魅力ないかな」
「えっ」
雲雀さんは俺に抱きついてくる。
「今日ね、和希と……と思っていたんだよ」
小さな声で恥ずかしそうに雲雀さんは言った。
「雲雀さん。あの……リビングに行きませんか」
雲雀さんは俯いている。俺は手を握りリビングへ行きソファーに座った。
「和希のばか、和希のばか、和希のばか——」
俯いている雲雀さんはソファーに座るや否や俺のことを馬鹿呼ばわりしている。
そして顔を上げた。ニコッと笑っている。その笑顔が怖い。
「うんうん。分かっているよ。私はお子様ぼでぃだもんね。つるつるぺったんだもんね。頑張って胸元開けても谷間ないから興奮しないよね」
「いや、そんな事は——」
「じゃあなぜ和希は襲ってこないの。私ドキドキして待ってたんだよ」
えぇぇぇ。襲ってよかったの。
「私は優等生じゃないんだよ。普通の女の子なんだよ。好きな人とそういう関係になりたいお年頃なんだよ」
「ご、ごめんさい。俺経験なくて……それに……用意してないです」
「それは心配ないよ。私のお友達が『頑張ってね』て言ってプレゼントしてくれたから。私のお友達は全員彼氏がいて経験済みだから。私だけ未経験なの」
おいおい。もしかしてお友達が雲雀さんを焚きつけたのか?
雲雀さんは興奮している。このままいってもいいのか?
いや、なんか違う。勢いは大事だと思うけど今は違う気がする。
深呼吸して……。おし。冷静になった。
「雲雀さん、落ち着きましょう。そして俺の話を聞いてください」
「うん。分かった」
「俺も雲雀さんとそういう事をしたいです。今すぐ押し倒したいです。だけど勢いでは嫌です。
ヘタレと思ってもらってもいいです。俺は雲雀さんの事を世界で、いえ、宇宙一愛してます。だから体だけではなく心でも一つになりたいです。
雲雀さんは未経験。お友達が経験者。焦っているように見えます。俺も未経験だから偉そうな事言えませんが、少し冷静になりましょう。
それに今日は親の目を盗んでいるみたいで後ろめたいです」
俺は今の自分の気持ちを素直に伝えた。
「……和希は私の事、大好きなんだね」
「当たり前です。雲雀さん以外の人は考えられません」
「ふふ。ありがと。私、焦ってたのかな。ゴメンね」
「いえ、俺も生意気言ってすみません」
雲雀さんは頭を左右にふった。
「ううん。和希が彼氏で良かったって思ったよ。カッコいいよ。私の間違いを正してくれてありがと。ますます好きになっちゃった」
ふぃぃぃ。ちょっともったいないと思うけど良かった。雲雀さんとはこれからもずっと一緒だ。焦らずいこう。
「ねぇ和希。やっぱり私は魅力ないのかな」
「そんな事ないです。会うたびにドキドキしてます。本音言うと今すぐ押し倒してペロペロたいです」
「えっ。そ、そうなんだ。嬉しい」
雲雀さんの顔が赤くなっていく。可愛い。
「和希」
「はい」
「えっと……する?」
「え? いや、えっと、さっき偉そうな事言ったばかりですし……」
「そうだね。おかげで私も冷静になったよ。でも……ね」
微笑む雲雀さん。くそう、理性が——。
「あの……いいんですか。初めてが俺で……」
「和希がいい。和希じゃなきゃヤダ。和希は?」
「俺も雲雀さんがいいです」
どどど、どうしよう。いいんだよね。
「えっと、ベッドに戻りますか」
「ここで……いいよ」
「え⁉︎ でも……」
「和希の赤ちゃん……欲しいな……」
待て待て待てーい。雲雀さん雰囲気に飲まれてる。ボク達高校生。ダメだよ。ソレはまだまだ先だよ。
——ブーブーブー。
机に置いていた俺の携帯電話が突然鳴った。音無しのバイブにしていたので俺と雲雀さんはビクッと体が反応した。
「だ、誰でしょうね。えっと……おじさんだ」
「え? お父さんから?」
「はい。なんだろ?」
時刻は午後十時。遅い時間ではないけど……何かあったのかな?
「はいもしもし」
雲雀さんも聞こえるようにスピーカーモードにした。
『おお、和希。起きてたかぁ』
おじさんはかなり酔っ払ってる。電話の向こうから騒いでいる声がする。
「はい起きてました。どうしたんですか?」
『孫は女の子で頼むなぁ。オヤジも弟も女の子がいいと言っとるぞぉ』
「え? 何言ってるんですかっ」
『んぁ。今日初夜だろぉ。嫁達は男の子希望らしいぞぉ。双子でもいいぞぉ』
「ちょっと、俺たちまだ高校生です。孫とかまだ早いです」
『そうかぁ。そうだなぁ。今時の高校生は遅れてるなぁ。真面目かっ。じゃあなぁ』
電話は切れた。何を言ってるんだよ、まったく。雰囲気ぶち壊しだ。
「えっと、和希。寝よっか」
「……そうですね。明日寝坊はマズいですしね。寝ましょう」
雲雀さんはおじさんの声を聞いて我に帰ったようだ。いつもの雲雀さんに戻っている。
今日はもう何もないな……。おじさんの馬鹿ぁぁぁ!
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