第60話 雲雀さんと二人きりで一夜を過ごす。
月日の流れは早いもので、明日は雲雀さんの通う学校の文化祭。現在の時刻は午後六時。
俺は今、雲雀さんの家の玄関の門の前にいる。隣には雲雀さんがいる。
「気をつけてね〜。温泉楽しんできてね〜」
と、雲雀さんが車に乗っているじいちゃん達に言った。
俺の両親と、雲雀さんの両親、おじいちゃん。そして側近の秘書さんと家政婦さんみんなで一泊二日の温泉。
俺と雲雀さんは留守番。明日が文化祭だからね。
妹の杏樹ちゃんは友達の家にお泊りに行ってる。
数台の車はゆっくりと走り出した。そして見えなくなった。
「和希。二人っきりになったね」
そう言って腕を絡めてくる雲雀さん。心臓の鼓動が早くなる。雲雀さんは可愛いと美しいを兼ね備えている。これほど素敵な人が婚約者なんていまだに実感が湧かない。
腕を組んだまま雲雀さんの家へ入る。先程まで賑やかだった。今は静かだ。雲雀さんの家には猫や犬もいない。雲雀さんと二人っきりの家。
俺は晩飯、風呂などは家で済ませてきた。雲雀さんは食事は終えているとの事。お風呂は今から。
『覗いたらメッ、だよ。入ってきてはいいけどね』と言って雲雀さんはウインクした。
雲雀さんは大胆すぎるぅぅ。『むっ。無理です』と俺が言ったら、『知ってる』と雲雀さん。からかわれたっぽい。
雲雀さんはお風呂へ。俺はリビングでテレビを見ながら待機した。
「お待たせ〜。ん? どうしたの?」
俺は見惚れてしまった。美しい艶艶の長い黒髪。胸元が少し開いた薄いピンク色のシルクのパジャマを着た雲雀さんに。
「あ、これ。ふふ、今日のために買ったの。似合う?」
そう言って、その場で髪をなびかせながらクルリとまわった。
こ、コレは、夏祭りの浴衣の時と同じ状況。それなら——
「可愛いです。雲雀さん」
「えへへ。ありがと。和希のパジャマもあるからね。お揃いだよ」
雲雀さんは満足している。よかった。雲雀さんは一旦リビングを出てパジャマを持ってきてくれた。
俺のシルクのパジャマも薄いピンク色だった。雲雀さんにはソファーに座って後ろを向いてもらい、リビングで着替えた。
「着替えました」
振り返る雲雀さん。嬉しそうだ。
「和希、隣においで。耳かきしてあげる。今日は膝枕だよ〜」
俺は焦る気持ちを抑えて雲雀さんの隣へ。そして雲雀さんの膝に頭を乗せる。ドキドキが止まらない。
「あ、綿棒がないね。このままテレビ見よっか」
「あ、じゃあ代わりましょう。俺が雲雀さんに膝枕してあげます」
「え! いいの? 嬉しい」
そして雲雀さんと入れ代わる。テレビはニュースを見ている。
「幸せだなぁ〜。和希がいとこで良かった」
「俺も雲雀さんがいとこで良かったです」
俺は雲雀さんの頭を撫でた。今この瞬間は人生で一番幸せな時間かもしれない。
「お互いいろいろあったね。和希がおじいちゃんの家に来てなかったら、今頃私はこの家で引きこもっていたよ」
「俺も雲雀さんがじいちゃんの家に来ていなかったら、家に帰らずそのまま住みついていたと思います。そして沙羅も変わらず今も苦しんでいたと思います。
雲雀さんは俺たち兄妹の救世主です。ありがとうございます」
「ふふ。救世主って大袈裟だよ。私は何もしてないよ。二人が頑張った結果だよ」
何もしてないって……。雲雀さんには
「和希」
「はい」
「大好きだよ」
「俺も雲雀さんのこと大好きです」
雲雀さんは起き上がった。俺を見つめている。美しすぎる。
「和希……」
「雲雀さん……」
雲雀さんの唇に目がいく。このまま……
「ごめん。ちょっとトイレ行ってくるね」
「へ? あ、うん。いってらっしゃい」
雲雀さんは立ち上がり歩いていく。はうぅぅぅ。
「和希」
雲雀さんの可愛い声。
「はい。何ですか?」
雲雀さんを見ると微笑んでいる。
「明日楽しみだね。私の友達が和希に会いたいって。頑張ってね」
雲雀さんは部屋を出て行った。頑張ってね? どういう意味?
考えているとすぐに雲雀さんは戻ってきた。そして隣に座った。
「和希。明日も早いしもう寝よっか」
テレビの時刻を見ると午後九時。寝るのは早すぎませんか?
「えっと、俺は何処で寝ると良いんですか?」
「和希は私のベッドで一緒に寝るんだよ」
「え? な、なんですと! 婚約しているとはいえ、それってマズくないですか! 俺たち高校生ですよ!」
「誰もいないから大丈夫だよ。私と一緒は、イヤ?」
嫌じゃない! 嬉しいに決まってる! でも俺も思春期の男の子。隣に雲雀さんが寝ていたら……。ヤッベーよ。それはまだ早いって!
雲雀さんは何考えているの? これは試されてるの? 俺がどのくらい雲雀さんを大切にしているのかの調査なの⁉︎
絶対そうだよ。よぉぉし。やってやろうじゃないか! 俺は雲雀さんに指一本触れないぞぉぉぉ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます