第56話 雲雀さんが俺にしたい事。

 二階の雲雀さんの部屋の扉の前に来た。どんな部屋かな? ドキドキ。


 雲雀さんが扉を開けながら『どうぞ』と言った。


 部屋に入る。広い和室だ。部屋の真ん中に机と座布団が四つ。テレビはない。


 インテリアは俺では読めない達筆な文字で書いてある掛け軸と、これまた俺では価値がよく分からない素敵な生け花。


 俺が見ていると『それ私が書いたの。生け花も私の作品だよ』と雲雀さんが言った。おっふ。雲雀さんすごすごだよ。


 窓から外を見ると……ちょっと遠いけど隣の家の部屋が見える。……ん? あいつは——どこぞの大馬鹿イケメン君だ。


 イケメン君と目があった。俺を見て驚いている。


「和希」


 雲雀さんに呼ばれた。振り向くと——


「おわっ⁉︎ ひっ、雲雀さん⁉︎」


 雲雀さんが俺に抱きついてきた。だっ、大胆。


「私たち婚約したんだよね。嬉しい。大好きだよぉ」


「う、うん。俺も嬉しいです。まさか婚約するなんて思いませんでした」


 雲雀さんは俺の胸に顔をうずめグリグリしている。くっ、かわいい。


 おっと、イケメン君に丸見えだ。


 横目でイケメン君の部屋を見た。お〜。めっちゃ悔しそうな顔してるよ。と言うかなんで悔しそうなの? キミ、自分から雲雀さんを振って別れたよね? 


 イケメン君は悔しそうな顔のまま勢いよく部屋のカーテンを閉めた。はっはっはっ。キミのおかげでボキュは幸せさっ。


「ん? 和希どうしたの?」


「いや、なんでもないです。えっと、これから何します?」


 雲雀さんは俺から離れた。はうぅぅ。聞かなきゃよかった。雲雀さんの温もりがぁぁぁぁ。


「えっとね。和希にね、したい事があるんだ」


「したい事? 何ですか?」


 雲雀さんはモジモジしている。顔も赤い。くっ、かわいい。モジモジ雲雀さんはレアだ。


「……耳かき……したいな」


「ふえ⁉︎ 耳かき?」


「うん。和希はさ、夏休みに私と夜一緒にいるとき、いっつもASMRの耳かき動画見てたでしょ? だからね、私もしたいなって思ったの」


 えっ、えぇぇぇ! なんですとぉぉぉ。


「私も動画見てやり方勉強したんだよ」


 恥ずかしそうにしている雲雀さん。耳かきを勉強って……真面目だぁぁぁ!


「ぜぜぜ、是非お願いしますっ」


「やったぁ。じゃあ隣の部屋のベッドに行こ」


「べべべ、ベッド⁉︎ どうしてですかっ?」


「だって膝枕だと耳もとでささやけないでしょ? 枕を使っていろいろ試したけど、和希がベッドに寝て私が床に座っての耳かきが一番いいと結論が出たからだよ」


「は、はい。了解しました」


 俺と雲雀さんはふすまを開け隣の部屋へ。廊下に出る扉はなく窓が二つ。床はフローリングでダブルベッドが一つと近くに座布団と小さな台。台には綿棒が入った袋が置いてある。


 俺はベッドに寝た。いい匂いがする。ココに毎日雲雀さんが寝ているのか……。


 雲雀さんは座布団に座った。見上げると雲雀さんの顔が……近い近いっ。


「えっと……恥ずかしいからあっち向いてね」


「はい」


 俺は寝返りをして反対を向く。くっ。雲雀さん顔を見ながら耳かきをしてもらいたかった。


「はい。じゃあ、次の三つから一つ選んでください」


「次の三つから一つ?」


「うん。ロリヒバリたん。ノーマル雲雀ちゃん。雲雀お姉さん。どれがいいかな?」


 なにその三択! 選べねぇぇぇ。ろっ、ロリで——はヤバイか! 雲雀さんドン引きしそうな予感! ちぃぃぃ。


「えっと、ノーマル雲雀ちゃんでお願いします」


「うん分かった。じゃあ、始めるね」


 そしてゆっくりと俺の耳に浅く綿棒が入ってくる。


 ごりゅごりゅ——。綿棒が耳の中で動いている。


「……幸せですか? ……もっと幸せになろうね。二人一緒にね……フゥ〜」


 う、嬉しすぎるリアルASMR。雲雀さんの耳かきに俺の心臓は耐えられるのか——。

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