第57話 雲雀さんは俺のイケボで癒されたい。

 ——ごしゅごしゅ。雲雀さんの耳かき継続中。


「……和希は私の事……好き? ……私の方がもっと好き。だいすき」


 耳元でささやく雲雀さん。


「……はっ、恥ずかしい。……恥ずかしくなってきたよぉ。でも……がんばるからね」


 ごぼぼぼ。心臓の耐久値がガリガリ削られるぅぅ。


「しゅきしゅきしゅき。大好き。和希だいしゅき」


 し、心臓が痒いいぃぃぃ。頭がクラクラするぅぅ。


「和希だけだよ。特別……だからね。……チュッ」


 雲雀さんの唇は俺の耳には触れていない。声だけのチュウ。幸せすぎるぅぅ。も、もう限界。ここは天国ですか⁉︎


「はい終わり。次は和希の番」


 気を失う直前だった。でも雲雀さんの一言で目覚めた。


 起き上がり雲雀さんを見た。顔が真っ赤。めっちゃ恥ずかしそうだ。


「ありがとうございます。でも、俺の番って一体……」


「和希も私の耳元で愛をささやくの。イケボでね。耳かきはしなくていいからね」


 はいぃぃぃ! マジか! でも……俺だけ癒されるのはダメだよね。愛をささやくとかそんなのやった事ないよ……ふぅぅぅ。


「分かりました。交代ですね」


 俺と雲雀さんは場所を入れ替わった。


「……雲雀さん、なぜこっちを向いているんですか? あっちを向いてください」


「それはイヤ。和希の方を向いて聞きたい」


 雲雀さんはベッドに横になり俺を見ている。かわいい。美しすぎるぅ。ま、まぁ、雲雀さんの好きにさせようかな。


「で、ではいきます」


「ドキドキ。ワクワク」


 雲雀さんの耳元に顔を近づける。めっちゃ近いよ。


「——ちゅっ」


 一瞬何が起きたのか分からなかった。俺は頭を勢いよくひいた。


「ひっ、雲雀さん⁉︎」


「キス、しちゃった」


 いたずらっ子のように可愛く言った雲雀さん。俺の唇と雲雀さんの唇が一瞬触れた。


「ちょ、ちょちょちょちょ、ええぇぇ」


 俺はパニック状態。あわわわ。


「私とは……イヤ……だった?」


 ベッドに横になりながら寂しそうに聞く雲雀さん。俺は勢いよく頭をブンブンと左右に振った。


「ううううう、嬉しいです。不意打ちすぎてビックリしました」


「良かった。だって改まってはずごく恥ずかしいでしょ? 二人だけの秘密だよ」


「は、はい。二人だけの秘密です。ナイショだす」


 噛んでしまった……。そんな事はどうでもいい。雲雀さんって大胆!


「私の……初めてのチュウだからね……」


「お、俺も初めてです」


 お互い無言になった。時計の音だけが部屋に響く。


「あ、もうこんな時間。和希はそろそろ帰らないとね」


 壁掛け時計を見ると午後三時をまわっていた。まだ一緒にいたいけど明日は学校。帰らないとね。


 雲雀さんの顔が赤い。俺も真っ赤っかになっているはず。


「えっと、どうしよっか? お父さんに家まで送ってもらう?」


「いえ、電車で帰ります」


 雲雀さんのお父さんに送ってもらうのはマズい。絶対チュウの事がバレる。二人の秘密って約束したしね。


 べ、別に怖いとかじゃないんだからね。


 俺は駅まで一人で歩いて行く事にした。頭を冷やしたい。幸福絶頂だから冷静にならないと。


 一階に降りて雲雀さんの両親に挨拶しようと思ったけど、雲雀さんのお父さんは用事で出かけていた。なのでお母さんと家政婦の皆さんに挨拶をした。


 そして雲雀さんと玄関外に出た。


「じゃあ帰ります。またしばらく会えませんけど……」


「うん。そうだね。あっ、和希」


「はい、なんですか?」


「十一月の第一日曜日に私の通っている学校で文化祭があるけど……来る?」


「ぜひ行きます」


「やった。和希の学校の文化祭はいつ? 私も行きたいな」


「あ〜。ごめんなさい。うちの学校は平日にあって一般の人は入れないんですよ」


「そっか。残念」


 寂しそうな雲雀さん。ギュッと抱きしめたい。


「——雲雀!」


 俺の後ろから男の声がする。誰ですか? 雲雀さんとの甘い時間を邪魔するのは? 激おこですよ?


 声がした方を見るために振り返ると——。


 雲雀さんの元カレのイケメン君がいた。まぁ声で分かったけどね。


てる……」


 てる? イケメン君の名前かな?


 俺は雲雀さんとイケメン君を交互に見ている。


「和希は知ってるよね? 私の元カレ。幼なじみで私と同い年。名前は、油木あぶらぎてる。光って書いてテルって言うの」


 ほう、なかなか変わった名前ですな。テル君今さら何かな? 初見の頃は二人の関係に口出しはできなかったけど今は違う。雲雀さんを悲しませたお前だけは——


 ——絶対に許さないからなっ!


 でもね……雲雀さんと別れてくれてありがとうございますっ! それだけは感謝だね!

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