第53話 雲雀さんに告白。

 十月中旬。今日は日曜日。雨が降っているので少し肌寒い。現在の時刻は午前九時。


 俺は今、じいちゃんの住んでいる町の無人駅の古びた小さな待合所に一人でいる。雲雀さんと夏休み初めに出会った場所。


 今となっては懐かしい。アレから今日までホントいろいろあったな……。


 ここで雲雀さんと十時に待ち合わせをしている。遅れると失礼と思い一時間早く来た。


 ◇◆◇


 紫音さんとは電話後から話をしていない。V◯ューバーを辞めると言っていたけど、毎日生配信はしている。


 よく分からないけど事務所に所属しているのでそう簡単にやめられないと思う。その場の感情で言っただけなのかも知れない。今となっては分からない。学校でも女友達と笑顔で仲良くしている姿を見る。


 俺はきりもんさんの推しは辞めた。これからは広く浅く配信者さんの動画を楽しんでいこうと思う。


 親衛隊は解散してもらった。今日の告白の事を伝え、誤解を招くような事は避けたと言ったらみんな了解してくれた。


『頑張ってね』と言ってくれた。これからも友達は続けるけど接点はかなり減ると思う。


 桐人はいつもと変わらない。毎日昼休みにキャッチボールをするようになった。球は硬式。


 俺は部活に入って野球をしようとは思っていない。エンジョイ勢として野球は楽しんでいこうと思っている。


 花ちゃんとは連絡は取っていない。でもまたいつかは会えると思う。転校先は雲雀さんと同じ高校だからそう遠くはない。偶然会えたり、大人になってから同窓会で会えるだろう。


 ◇◆◇


 午前十時着のワンマン電車が無人駅にきた。雲雀さん一人だけ電車から降りる。まだ雨は降っている。傘をさし待合所にきた。


「和希、久しぶりだね。同じ電車と思っていたよ〜」


 雨水をおとし傘を閉じて俺の隣に座り微笑む雲雀さん。久しぶりに見るその笑顔は世界一かわいい。


「リバウンドしてないね。えらいぞ」


 かわいい雲雀さんの声。いつまでも聞いていたい。


「いろいろ大変だったね。よしよし」


 そう言って俺の頭を撫でる雲雀さん。優しすぎる。


 このまま告白しないで楽しい時間を過ごしていきたい。でも何もしなければ楽しい時間の終わりは必ずやってくる。


 その終わりが明日かも、いや一時間後、十分後かも知れない。


 『好きです。付き合って下さい』とこれから雲雀さんに告白する。俺の人生最大の分岐点だと思う。今後の人生に大きく影響を与えるだろう。


 振られたら二度と雲雀さんに会わない。その覚悟で俺はここに来た。


「雲雀さん。今日は俺のわがまま聞いてくれてありがとうございます」


「ふふ。改まって何かな? 別にいいよ。和希のお願いなら私は最優先にするから気にしないで」


 雲雀さんの言葉を聞いていると俺の事を好きなのかと勘違いしてしまう。いや好きであって欲しい。


「雲雀さん。聞いて下さい」


 俺は真剣に雲雀さんを見た。雲雀さんならもう気づいているはず。俺が告白すると言う事を。


「和希……うん……ちゃんと聞くね……」


 隣に座っている雲雀さんの顔か少し赤い。俺をジッと見つめている。


「俺、雲雀さんの事が好きです。俺の彼女になって下さい。付き合って下さい」


 心臓が痛い。押し潰されそうだ。喉もカラカラだ。


 俺の手を握る雲雀さん。


「和希。私も和希の事が好きだよ。彼女になります。お付き合いします」


 嬉しくて涙がとめどなく出てくる。


「……もう、和希泣かないの。せっかくのイケメンが台無しだよ」


「ごめん。嬉しくて……雲雀さんありがとう。大切にします」


 俺はポロポロと涙を流しながら答えた。そんな俺を見て、雲雀さんは自分の胸に俺の頭を引き寄せた。


「ありがと。大切にしてね。浮気しちゃダメだよ」


「はい。約束します」


「私の知らないところでいろいろあってツラかったね。もう大丈夫だよ。私が慰めてあげるからね」


「雲雀さんありがとう。でも俺、強くなります。雲雀さんを守れる男になります」


 雲雀さんは俺の頭をギュッと抱きしめた。


「うん。分かった。私を守れる強い男になってね。愛してるよ和希」


「俺も……愛しています……」


 無人駅に電車が止まる音。その音で雲雀さんは抱きしめるのをやめた。


 待合所の窓から見えるワンマン電車。雨は止んでいた。老夫婦が手を繋いで降りている。


「私達も将来あの人達みたいにになれたら幸せだね」


「そうですね」


 雲雀さんは俺にハンカチを渡した。ほのかにいい香りがする。そして雲雀さんは立ち上がる。


「和希、行こっか」


「何処にですか?」


「私のお父さんとお母さんに会いに。報告だよ」


 ふっ、ふえっ⁉︎ そ、そうだよね。挨拶しなきゃだよね。


 俺は立ち上がった。そして雲雀さんと小走りで電車に乗り込んだ——。

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