第3章 和希と雲雀編

第52話 今の自分ができること。

『なっ、なんだかズゴイね。ドラマみたいだね』


 俺の話にさすがの雲雀さんも驚いている。


「はい。いまだに頭が混乱気味で……」


『そうだよね。混乱するよね。和希には突然の出来事だよね。でも時間は誰にでも平等にあって同じ時間を過ごしているんだよ。

 みんな自分の時間を生きているって言えば分かるかな? それぞれの物語が重なった。だね」


「それは分かってますけど頭が追いつきません」


『ふふ。そんなの当たり前じゃない。和希はまだ十七歳だよ。大人じゃないんだよ。経験不足だよ』


「そうですね……」


『ほら、元気出して』


「ありがとうございます」


 雲雀さんの声を聞いてると心が安らぐ。ずっと雲雀さんと仲良くしていたい……。告白してふられたら……もう電話で話も出来なくなる……。ならこのままでも……。


『和希、何考えてるの?』


「あっ。いや、また一度に沢山の人が俺から離れていって……ちょっとつらいなって……」


 沙羅、紫音さん、花ちゃん。みんながいて毎日が楽しかった。またもとに戻ったな……。


『つらいね。でもいつまでも幸せは続かないよ。和希はその幸せを守るために何かしたの? 浮かれて現状に甘えて何もしていなかったじゃないの?』


「それは……はい。何もしていません」


『だよね。沙羅ちゃんの時も止めようと思えば止められた。

 紫音さんも桐人君に任せず自分で話をしたら仲直りできた。

 花さんは……変化に気づいていたけど何もしなかった。何か行動していたら良い思い出になっていた。その結果が今の和希だよ』


 雲雀さんの言うとおりだ……。俺、何も変わってない。小学生の時のままだ。変わったと思っていた。自惚れていた。ただ痩せただけ。外見が変わっただけで中身は変わっていなかった。


『大丈夫。私はずっと和希のそばにいるよ。親友の桐人君もね』


 ……それじゃダメだ。雲雀さんや桐人は優しい。今の俺でもずっと仲良くしてくれる。でも甘えちゃダメだ。俺、変わらないと。


 沙羅は俺の力量じゃもうどうすることもできない……でも紫音さんとは仲直りできるかもしれない。花ちゃんとは話くらいは出来るかもしれない。


 自分のできる事を少しずつやっていくしかない。今はそれしか思いつかない。


「俺……自分のできる事をやってみます。失敗するかもだけど頑張ります」


『そっか。うん。頑張って。応援してるよ』


 それに——


「雲雀さん。今度の日曜会えませんか?」


『ん? なに? 花ちゃんの代わりかな?』


『花ちゃんの代わりはいません。もちろん雲雀さんの代わりもいません。会って話したいことがあります」


『……いいよ。じゃあ、おじいちゃんの住んでいる町のあの待合所に十時でどうかな?』


「はい。それでお願いします」


 そして雲雀さんと通話を終わった。


 まずは……花ちゃんだ。俺は花ちゃんに電話をした。


『……はい』


「花ちゃん。少しだけでいいから話できないかな?」


『……少しだけなら……』


 話は三分ほど話をした。いろいろ話せた。そして……。


「生意気なこと言うけど、いろいろ気づかなくてごめん」


『……いえ。私の方こそ……、一方的でごめんなさい。……悲しくて……』


「うん……。あのさ、つらくなると思うけど……聞いてもらいたい事がある……」


『……和希さんの好きな人の事ですか……』


「うん……」


『その前に……いいですか?』


「うん……」


 花ちゃんが何を言うのか分かっているつもりだ。


『私……和希さんのことが……好きです。中学生の頃から……好きでした……』


「ありがとう。でも……ゴメン。俺……好きな人に今度の日曜告白する……うまくいくかは分からないけど……もう花ちゃんとは電話はできない……水族館にも行けない』


『……はい。ありがとうございます。水族館には行けなかったけど……思いが伝えられて……嬉しいです……』


 電話の向こうからすすり泣く声が聞こえる。……ゴメンね。


『和希さん……頑張って下さいね。私も転校先で頑張ります。少しだけ……強くなれた気がします』


「ありがとう。花ちゃんも頑張ってね」


『はい……じゃあ、もう電話切りますね。さよならです』


 花ちゃんとの通話は終わった……。あれで良かったのだろうか……。今の俺にはアレが精一杯だった。


 そして紫音さんに電話した。


 ……。


 ……。


 出ない……。


『……はい』


「紫音さん。少しだけでいいから話出来ないかな?」


『……』


 返事はない。だけど通話は切れていない。


「あのさ、俺このままは嫌だから。仲直りしてもらえないかな?」


『……無理だよ……私最低だから……ほっといて』


「ほっとけないよ。俺さ、きりもんさんに沢山助けられた。だから今度は俺が紫音さんを助けたい」


『……きりもん辞めるから……バイバイ』


「まって——」


 なんて言えばいい? 分からない。


「俺、怒ってないから、だから——」


『……分かった……和希君にこれ以上迷惑かけられない……仲直り……します……。だけど……もう……話とかはしない。それは分かって……』


「うん……分かった。明日も学校で会おうね」


 紫音さんは電話を切った。通話中ずっと泣く声がやむことはなかった。


 俺は……ちっぽけな男だな……。今はこの程度しかできないなんて……。


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