第51話 紫音さんの策略。

 お昼休みに女子から告白された放課後。俺は自身の非公認親衛隊リーダーから『和希様。放課後、教室に残って下さい』とお願いされた。


 言われた通りに教室に残った。俺と親衛隊リーダー。そして紫音さんと桐人。


 紫音さんは帰りたいと言っていたけど、桐人が無理矢理止めて残した。そして桐人も教室に残った。


「えっと、リーダー。残った理由を教えて。どうして紫音さんも残したの?」


「お昼休みの件です」


「お昼休み? 女子からの告白の事?」


 リーダーは頷く。


「紫音さん。もう分かっていると思います。ご自分から言った方がいいと思いますが……」


「な、なんの事? 何を言っているの?」


 紫音さん? どうしたの? ん? 何だ? リーダーは何を言ってるの?


 リーダーはため息を吐いた。


「……私、トイレで籠もっていたら偶然聞いたんです。あの二人の会話」


「会話? どんな会話?」


 俺はリーダーに聞いた。


「『紫音はどうして私達にあんな事させたんだろうね。アレじゃ和希君はもうモテないよね。怒られて謝るってホント意味わかんない』って」


 ん? 紫音さんが……あの二人に告白をやらせた?


「それから『私達も被害あるけど結構な額貰ったからプラスよね〜』と」


 結構な額ってお金払ってやらせたの⁉︎ 何故? どうして?


 紫音さんを見ると無表情でリーダーを見ている。


「紫音さんホントなの?」


「知らない。そんなのデタラメ。何言ってるの?」


 紫音さんから睨まれても目を逸らさないリーダー。その姿を見る限り嘘をついているようには見えない。


「私は和希様にひどい事をしました。そして許してもらいました。もう二度と和希様を傷つけません。嘘は言っていません。私は親衛隊隊長なのですから」


 ……いや非公認だからね。ツッコミたいけどそんな雰囲気じゃないよね。


「和希君、桐人。私とこの女、どっちを信じるの? もちろん私だよね?」


「えっと……」


「俺はリーダーが嘘をついているとは思わない。その二人に明日確認する。それで分かるだろう」


「そうだね。うん明日確認しよう」


 紫音さんの目が泳いでいる。


「……だめ。そんなのダメ……」


 紫音さんがボソリと呟き頭を左右に振った。


「……和希君はモテちゃダメなの。桐人とずっと二人だけで仲良くいないといけないの……」


 ……はい? 紫音さん何を言ってるの? 桐人とずっと仲良くは当たり前でしょ? 親友だし。


「紫音。やはりおまえの仕業だったのだな。おかしいと思っていた。何故おまえが和希の事で怒ったのか理解出来なかった。廊下で和希を怒鳴った理由は何だ?」


「私を理解できない……か。……桐人……あなたの為よ……」


「俺の……ため? 意味が分からん」


 桐人は本当に意味が分かっていないようだ。俺も分からない。


 リーダーは……分かっているみたいだ。何故? 女の子は女の子の事が分かるの?


「……桐人……あなたは和希君の事好きだよね……愛しているよね。だからあんな事したの。

 桐人が和希君に告白した時、ちゃんと考えてもらう為でもあるの……」


 え? え? ——えぇぇぇぇぇ! なんですとぉぉ! き、桐人が俺のことを好きぃぃ⁉︎ こっ、告白ぅぅ。


 待て待て待って。いきなりなんなの! 頭パニックだよ⁉︎ だけど俺以上にいつも冷静な桐人が驚いてるよ!


「紫音ちょっと待て! 俺が和希を好きだと! 愛しているだと! そんなバカな事あるか! 俺が好きなのは沙羅ちゃんだぞ!」


 えっ! なっ、なっ、なにぃぃぃ! 桐人は沙羅が好きだったのぉぉぉ。もう何がなんだか分からない。誰か助けて。


 リーダーは冷静に二人を見ているよ。なにこの子。さすがはリーダーって事?


「……うそ……だって桐人、和希君をいつも気にかけていたでしょ? デブになっても離れなかったし……」


「それは親友だからだろ! おまえ俺をどんな風に見ていたんだ! 馬鹿かっ!」


「じゃあ、私がした事はなんだったの……無駄だったの……そんな……愛する桐人のために頑張ったのに……」


 紫音さんはその場に崩れ落ちた。泣いている。


「和希。迷惑かけてすまない。紫音の事は俺に任せてくれないか? リーダーもありがとな。さすが和希の親衛隊だな」


「いえ。和希様をお守りするのは私達親衛隊の仕事です。お礼は入りませんわ」


 いろいろツッコミたいけどもういい。ありがとう親衛隊リーダー。


 ◇◆◇


 夜の電話で桐人から報告があった。紫音は二度と和希に近づかない。学校は卒業までちゃんと行く、などなど。


 結局、紫音さんの勘違いから始まった告白だった。近づかないか……寂しくなるけど仕方ないよね。


 時刻は午後八時。そろそろ雲雀さんから電話がくる。


 携帯端末から音が鳴った。雲雀さんだな。


 画面を見ると……あれ? 花ちゃん? どうしたんだろう?


 花ちゃんと連絡先は交換していた。水族館に誘われた時交換していた。


「はいもしもーし」


『……和希さん……』


 元気がない。どうしたんだろう。


「どうしたの?」


 優しく聞いてみた。


『あの……ごめんなさい。水族館行けなくなりました。私……明日引っ越します』


「ひっ、引っ越し⁉︎ え? それって……転校って事⁉︎」


『はい……もう会えなくなります。約束したのに……急でごめんなさい。短い間でしたが……毎日楽しかったです。ありがとうございました……』


「待って、まだ電話大丈夫かなっ!」


『……いえ、もう切ります……明日早いので……さようなら……です』


「ちょっ——」


 電話が切れた。急にどうして⁉︎ 転校って……いや……花ちゃんからしてみたら急じゃないよね? 家庭の事情でやつか? 引っ越しは急にすることになったぽいけど……。


 考えがまとまらない。くそっ。今日はいろいろあり過ぎた!


 そんな事を考えていると携帯端末が鳴った。雲雀さんだ。


『もしもーし。雲雀ちゃんだよー』


「こんばんは……」


『あ、あれ? 元気ないね。どうしたの?』


 優しい声。俺は今日の出来事を雲雀さんにすべて話した——。

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