第40話 和希専用エクササイズルーム。
目を閉じ沙羅に手をひかれ、しばらく歩いて止まった。
「お兄ちゃん、目を開けていいよ」
目を開けるとそこは物置きに使っていた二階の一室。綺麗に片付いている。
「ここが楽しい場所だよ。どうかな? 凄いでしょ?」
「う、うん」
凄いと言うか……なんじゃこりゃぁぁぁ。
目の前の光景に俺は驚いた。膨大な数のダイエット器具が広い部屋に並んでいた。
義理の母さんが通販で買っては使わない、買っては使わないで箱からも出さなかった最新器具! 我が家の大量の負の遺産っ!
お腹プルプル勝手に動いて脂肪燃焼。器具に乗って自動で左右にブルブル動いて脂肪燃焼。ぶら下がり健康器。雨の日もサボれないルームランナー。腹筋背筋が一人でできちゃう器具。などなど。
それを俺のダイエットに使うとは!
さらに新たに設置されたテレビにDVD再生機。再生させるDVDはひと昔前に流行った軍隊式ダイエットエクササイズ。そしてウォーターサーバーと机。机の上には大量のプロテイン!
ダイエット器具以外はお父さんか! お父さんが追加で買ったのか! いつの間に⁉︎ ネット注文速達か!
「雲雀さんはいにしえの時代からの秘伝でお兄ちゃんを細マッチョのイケメンにしたでしょ? 私は近代最新器具でお兄ちゃんを細マッチョのイケメンにします!」
「ははは」
沙羅の目が燃えている。俺は笑うしかなかった。
「お兄ちゃん。一ヶ月で細マッチョのイケメンになろーね」
「は? イヤ無理! 一ヶ月は絶対無理だって!」
「大丈夫大丈夫。死なない程度にやれば痩せるよ」
死なない程度ってマジなの? マジで言ってるの⁉︎
「早速頑張ってね」
「い、今から⁉︎」
「そうだよ」
「えっと、沙羅は明日弁当作るんだろ? もう寝た方がいいんじゃない? 桐人も楽しみにしてると思うしさ」
「……どうして桐人さんの名前が出てくるの?」
あれ? 沙羅ちゃん怒ってる?
「お兄ちゃん、もしかして私が桐人さんの事も好きとか思ってない?」
「違うの? 毎日弁当作るって言ってたし」
「違うよ。好きじゃないよ。桐人さんの事全く興味ないもん。私はお兄ちゃん一筋だよ。桐人さんのお弁当はお兄ちゃんと一緒にご飯食べる口実を作る為だよ」
「どうこと?」
口実? 沙羅が何を言っているのか理解できない。
「あのね。お兄ちゃんが毎日お弁当忘れる事はないよね? そんな時私が友達と普通にお兄ちゃんに近づいて『ご飯一緒に食べよ』て言うでしょ?
そしたら桐人さんが気を使って『二人で仲良く食べなよ』って言って私の友達と何処かに行く可能性があるよね。
そうなるとお兄ちゃんが『沙羅、悪いけど一緒にご飯は遠慮して』ってなるでしょ?
その可能性をゼロにする為に桐人さんに毎日お弁当を作るの。お弁当があると桐人さんはその場に残って、私はお兄ちゃんとお昼ご飯を一緒に食べることができるってわけ」
ほ、ほう。そんなしたたかな計画があったのね。長い説明ありがとうございます。
「な、なるほど。でも朝早いからもう寝たら? ちゃんとやるからさ」
「大丈夫大丈夫。おかずは冷凍食品だからね。チンして詰めるだけだから楽チン楽チン。最新技術で作られたおかずは凄いんだから。私はお兄ちゃんのお手伝いするって約束したからね。ずっとそばにいるよ」
そう言って沙羅は微笑んだ。その笑顔が悪魔に見えた。
「あ、そうそう」
沙羅は部屋の角にある段ボールから何かを取りだした。
「お兄ちゃん、エクササイズ中はコレを着てね」
沙羅から手渡されたもの。コレは……
タンクトップと短パン⁉︎
「さっ、沙羅。なぜタンクトップと短パンを着るのかな?」
「え? だって痩せて細マッチョになっていくのが目に見えて分かるでしょ? そしたら、もっとがんばろーってなるよ」
「な、なるほど。夏だし暑いからいいかもね。分かった。エクササイズ中はコレを着るよ。ありがと」
「ダンボールの中に同じものが大量にあるからね。着替えには困らないよ」
「あ、はい。了解しました」
俺はタンクトップと短パンに着替えトレーニングを始めた。
◇◆◇
「ぜぇ、ぜぇ。……お、終わった」
俺は床に這いつくばった。もう動けない。
「お兄ちゃん。はい、プロテイン」
沙羅の作ったエクササイズメニューは過酷だった。終わった時刻は夜十二時を過ぎていた。
沙羅は鬼トレーナーだった。めっちゃキツい! し、死ぬっ!
雲雀さんの優しいダイエット法が恋しいよぉぉ。
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