第39話 甘々な義理の兄妹。

 家に帰りしばらくしてから晩御飯を忙しいお父さん抜きの三人で食べた。賑やかな食事。最近はご飯が美味しい。雰囲気が良いからだね。


 そのあとお風呂などを終え今は自分の部屋にいる。時刻は午後八時。日課の推しのVチュー◯ーの生配信歌枠を視聴中。


 うへへ。今日も可愛い。声がさいこー。だけど、この声って——。


 ——コンコン。


 部屋の扉からノックの音。誰ですか? 推しとの幸せな時間を邪魔するのは?


 仕方なく扉を開けると可愛いパジャマを着た沙羅がいた。可愛く微笑んでいる。


「お兄ちゃんっ。楽しい所に連れていってあげる。目をつぶって。それから手をつなごっ」


 イキナリ何? 楽しい所? 何処だろう? 家の中だよね?


『はやくはやく』とせがむ義理の妹の沙羅。


 俺は目を閉じ両手を前にだす。キュと手を握られた。いつぶりだろう。沙羅と手を繋ぐのは。暖かく柔らかな手。


「……沙羅?」


 体感で一分程度の沈黙。どうしたの沙羅ちゃん。


「お兄ちゃん、絶対目を開けちゃダメだよ」


「うん」


「大好きっ」


 俺はびっくりして目を開けた。顔を赤くしている沙羅が目の前にいる。


「あ〜。目開けちゃダメって言ったでしょ。もう、お兄ちゃんのバカ」


「ごめん。不意打ちだったからさ」


「私はお兄ちゃんに告白して振られたけど、好きって気持ちは残ってる。いま手を繋いではっきりと分かった。私はお兄ちゃんが大好き」


「そ、そう。ありがとう。嬉しいけど……」


「分かってるよ。お兄ちゃんの気持ちが変わらない事は。でも、今も好きって気持ちは伝えたかった」


 沙羅は照れながら話をしている。そんな紗羅を見て俺も今の気持ちを伝えようと思った。


「沙羅。俺も沙羅のことは大好きだ。でも兄妹としてだよ。沙羅は大切な妹。かけがえのない存在だよ」


 沙羅の目に涙が溢れる。


「私……あんなに酷いことしていたのに……。お兄ちゃん。ありがとう……」


「ほらほら泣かないの」


「あっ……」


 沙羅は手を離し涙を拭いた。


「ごっ、ごめんなさい。お兄ちゃんの前では笑顔でいようと決めてたのに……」


「そうなの? ああ。そっか。ありがと。心配させたくないんだね。でも無理しなくていいんだよ。笑いたい時は笑って、怒りたい時は怒って、悲しい時は悲しんで、泣きたい時は泣いていいんだよ」


「……うん。コレからは我慢しないでそうするね……」


「おう。そうしなさい。その方が俺も嬉しいよ」


 沙羅は目に涙を溜めながらもニコッと笑った。


「……もぉ。お兄ちゃんは優しすぎるよぉ。ますます好きになちゃうよぉ」


「はは。ありがと。でもごめんね。やっぱり俺は雲雀さんが好きだ」


「それは分かっているよ。だからお兄ちゃんには雲雀さんと幸せになってほしいな」


「うーん。それは雲雀さん次第かなぁ?」


 沙羅はまだ負い目を感じていたんだな。少しずつでいいから罪悪感が消えてくれるといいな。


「ところで沙羅。楽しい場所に行くんだよね? 何処に行くの?」


「あっ。そうだった。忘れてたよ。えへへ。ごめんね」


「いいよ」


「はい、じゃあ、目をつぶって」


 俺は言われるまま目を閉じた。沙羅は俺の手を握った。


「じゃあ行くよ」


「はい」


 沙羅は何処に連れて行くんだろう? うーん。謎だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る