第41話 神楽紫音さんは動画配信者?

 ぐっ、か、体がバキバキに痛……い。筋肉……痛だ。


 沙羅の凶悪エクササイズの次の日。俺は筋肉痛が炸裂していた。


「どうした? 寝違えでもしたのか? 大丈夫か?」


 桐人が心配している。優しいなぁ。


 今は学校にいる。時間の経つのは早いものでもうお昼休み。


「兄さん、お昼一緒にいいですか?」


「あい、いでで」


 沙羅は無表情で俺を見ている。沙羅の隣には神楽紫音さん。今日から四人でお昼ご飯。


 ……ん?


 俺への視線を感じた。筋肉痛の痛みに耐え、視線を感じた方を見た。


 クラスメイトの小柄でおさげ髪眼鏡女子がこちらを見ていた。目が合うと視線を外された。


 あの子……いつも一人だよな……。友達いないのかな? あだだだ。筋肉痛がいたひぃぃぃ。


「はい、桐人さん」


「さんきゅ」


 沙羅が桐人にお弁当を渡している。俺は今日忘れず持ってきている。


「え? 沙羅。どうして桐人にお弁当渡しているの?」


 紫音さんが不思議そうに聞いている。


「兄さんと自分のお弁当は私が作っているから、ついでにですよ? 別に深い意味はないですよ」


「じゃあ、明日から桐人のお弁当は私が作る」


「私が作る? 紫音さんって桐人と知り合いなの?」


 俺は質問した。


「私と桐人は幼なじみなの。知らなかったの?」


「知らない。桐人そうなの?」


 桐人は頷きながら『そうだ』と言った。


「紫音ちゃんが作るなら交代しようかな。桐人さんいいかな?」


 沙羅が聞くと『イヤ、遠慮する』と桐人は言った。


「はぁ? どうしてよ!」


 紫音さんはご立腹だ。


「沙羅ちゃんはついでに作るから貰うことにいたんだ。おまえはついでではないだろ? 負担になるからいらない」


「べ、別に構わないんですけど!」


 紫音さんの返答に桐人は『はぁ』っとため息を吐いた。


「沙羅ちゃん。弁当は今日まで明日からは要らない。不要なイザコザは避けたい」


「えっ⁉︎ ……桐人さんがそう言うなら……分かりました。明日から桐人さんのお弁当やめますね」


 沙羅は素直に言うことを聞いた。


「ありがとう。紫音も悪いな。気持ちだけ貰っておくよ」


 うーん。なんか雰囲気悪いな……。そうだ!


「あのさ、俺昨日からダイエット始めたんだよね! ねっ沙羅」


「「えっ」」


 桐人と紫音さんが驚いている。よし、効果抜群だ。


「そうか。がんばれよ。俺も手伝える事があったら遠慮なく言ってくれ」


 雰囲気が和んだ。良かった良かった。


 その後仲良く四人でご飯を食べた。


 ◇◆◇


 あっと言う間に放課後になった。時間の経つのは早いね。だけど家に帰ったら地獄のエクササイズか……。くぅぅぅ。がんばるぞ。


「和希君」


 紫音さんが俺に声をかけてきた。


「何?」


「この後残ってくれないかな?」


 ふぇ? なんだろ?


「えっと、沙羅が下駄箱で待ってると思うからちょっと下駄箱行ってもいいかな?」


「それは大丈夫。沙羅には『放課後和希君借りる』って言ったからもう帰ってると思うよ」


「そうなの? 分かった」


 ◇◆◇


 しばらくすると教室には俺と紫音さんだけになった。


 紫音さんは俺に何か聞きたい事でもあるのかな? ちょうど良かった。俺も聞きたい事があったんだよね。


 昨日初めて紫音さんの声聞いたけど、俺が推しているV◯ューバーの声にそっくりなんだよね。瓜二つって言うのかな? と言うか中の人確定?


 まぁ、教えてはくれないと思うけどね。でも聞いた時の反応で分かるかも。ドキドキ。ワクワク。


「和希君、あのさ、沙羅は桐人のこと……好きなの?」


 ……はい? あ、弁当か。ははは、勘違いするよね。


「沙羅は桐人のことは好きじゃないよ。興味ないって言っていたしね」


「そ、そうなの。じゃあどうしてお弁当作っていたの?」


「昼の話の通りだよ。俺と沙羅の弁当は沙羅が作っている。そのついでだよ。桐人はいつもメロンパンと牛乳でしょ? だからだよ。深い意味は全くないよ。と言うか沙羅と恋ばなはしないの?」


「恋の話はしないよ。一度したことあるけど沙羅は嫌がっていたし。それから全くしてない」


 ふむふむ。なるほど、じゃあお互い好きな人は知らないのね。紫音さんはバレバレだね。桐人のこと好きだよね? めっちゃ嬉しそうだよ。


「うんうん。ありがと。じゃあ帰るね」


「ちょっとまった」


「何?」


 自分の用件が終わりささっと帰ろうとする紫音さんを呼び止めた。不思議そうにコチラを見ている。


「紫音さんってもしかして、きりもんさんでは?」


 きりもん……俺が一年前から推しているV◯ュー◯ーの名前。紫音さんは俺の問いで固まった。


「ななな、何? きりもんって誰? 誰かな〜」


「俺が推している動画配信V◯ューバーです。ちなみに俺はコブタって名前のリスナーです」


「コブタさん⁉︎ 和希君が⁉︎ あ、ゲホゲホ、なんだろなぁ。サッパリ分からないなぁ。Vチュー◯ーって何? ——あ、もうこんな時間だ。私帰るね。また明日〜」


 紫音さんは逃げるように教室から出て行った。余程慌てていたのか何度か机にぶつかっていた。中の人確定だ。


 だからといって何もしないけどね。中の人には全く興味ないからね。知りたいというちょっとした好奇心だね。


 俺は満足して家に帰った。


 ◇◆◇


 家に帰っていつものように晩御飯お風呂に入った。そしてエクササイズの時間がやってきた。俺は部屋で沙羅が来るのを待っている。推しのASMRを聴きながら。


 グフフ。み、耳がくすぐったひぃぃぃ。最高か?


 部屋の扉からノックの音。時間的に鬼トレーナー沙羅ちゃんだね。さて今日もがんばろ。体の筋肉痛はまだあるけどね。


 扉を開けると沙羅がいた。


 やっぱり元気がない。晩御飯の時も元気がなかった。今日は沙羅の大好きなハンバーグだったけど半分残していた。


「お兄ちゃん、あのね……」


「どうしたの?」


 沙羅は何か言おうとしている。俺は催促せずにしばらく待っていた。


「私ね……、一年留学することになったの……」


 それは予想もしていない突然の報告だった——。

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