第5話 弁当箱の中身

 ——ピピピピピ。


 目覚ましのアラームが鳴った。


 ……ふぁぁぁ。


 いつの間にか眠っていたみたいだ。


 泣いて一晩寝たらスッキリした。


 ガラスのハートが粉々に砕けアイアンハートにパワーアーップ! 完全復活!


 落ちるところまで落ちたら後は上がるだけ。


 ネガテイブよりもポジティブに。


 後ろ向きより前向きに。


 人生は楽しまなくちゃね。


 たとえ愛している女の子に心底嫌われていても。


 ——って。違う違う! あぼぼぼぼ。何言ってんの俺は! 兄妹! 兄妹だから! 兄妹愛だから!


 ……さてと、今日も元気に学校に行くかな。


 俺は自分の想いをかき消すように勢いよくパジャマを脱ぎ学校の制服に着替え、朝のルーティンを終わらせ学校へ。


 ◇◆◇


 時間の経つのは早いものであっという間にお昼休み。


 おひる〜、おひる〜、おひるごは〜ん。


「……あっ」


 大切なお弁当を忘れてしまった……。くっ、なんてこったい。


 どうやら心の傷はまだ癒えていないようだ。弁当を忘れるなんて。


「なんだ。弁当忘れたのか?」


「う、うん」


 俺に声をかけてきたのは隣の席で唯一の友達、学校一のイケメン、鈴木すずき桐人きりと。小学生の頃からの友人。


「じゃあ、昼抜きだな」


「イヤイヤ、購買に——」


 ——トン。


 机の上に突如現れた俺の弁当袋。


 義理の妹の沙羅が現れ無言で置き、去っていった。


 ちなみに沙羅とは同じクラス。


「良かったな」


「う、うん」


 ありがとう沙羅。わざわざ持ってきてくれたんだね。優しいなぁ。


 俺は弁当箱を開けた。


「あ……」


 俺が固まっていると、唯一の友達鈴木桐人が弁当箱を覗き込んだ。


「……他所の家族の事にあまり口出しはしたくないがコレは酷いな。どうした?」


 毎日義母が弁当を作っている。いつも綺麗に並んでいるおかず。今日はグチャグチャに潰され白米と混ぜられていた。


「何でもないよ。それにお腹に入れば同じことだし、昼抜きよりマシだよ」


「そうか……」


 桐人はそれ以上何も言わなかった。


 俺はグチャグチャの弁当を食べた。アイアンハートでも、ちょっと悲しい。


 桐人はメロンパンと牛乳。


「なあ、和希」


「何?」


 弁当を食べ終えると同時に桐人が話しかけてきた。


「おまえ痩せる気は無いのか?」


「ないよ? 何で?」


「おまえは馬鹿だな……」


 桐人はため息を吐いた。


「ハイハイ俺は馬鹿ですよ。成績は下から数えた方が早いですよ〜」


「いや、その馬鹿ではなくてだな」


 桐人、キミが何を言いたいか分かってるさっ。でもね、もう手遅れなんだよ。


 それに桐人だけだよ。太っても変わらず友達でいてくれたのは。沢山いた友達は皆離れていったよ。


 だからね、ダイエットはしないよ。しても無駄なんだよ。


「……なぁ和希」


「ゴキュゴキュ……ぷはぁ。何だい?」


 麦茶を飲んでいると桐人が話しかけてきた。


「俺はおまえの事を親友と思っているからな」


「いきなり何?」


「だから死ぬなよ」


「ぶはっ! 何ソレ。何なの?」


 桐人は真剣な眼差しで俺を見ている。


「……大丈夫だよ。ありがとう」


 俺がそう言うと桐人の顔が和らいだ。


 桐人、キミはホントいいやつだなぁ。流石学校一のイケメン。


「あ、そうそう。俺さっ、夏休みの間は田舎のじいちゃんの家に行くから」


「何故だ?」


「ん〜。じいちゃん孝行かな? 年が年だしね」


「そうか」


 雑談をしていたらお昼休みが終わった。午後は眠気と戦いながら終了した。


 ◇◆◇


 それから数日は静かな日々を過ごした。


 弁当グチャグチャ事件から沙羅は俺のことを無視するようになった。目も合わせなくなった。


 ——そして夏休みが始まった。


 俺は逃げるように田舎のじいちゃんの家に行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る