音を頼りに⑩




迷子になってから唯一の味方だった真咲との別れは辛い。 もう会えない可能性が高いと思うと猶更だ。 先程より足の進みが遅くなったのは、夏々の気持ちが表れているからだ。


―――・・・そう言えば、観覧車に乗れなかったな。

―――真咲と乗りたかった。


チケットはまだ持っている。 当てもなく歩くのは寂しかったため、観覧車を目指すことにした。 本当は今日一日楽しむはずだったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。 

久しぶりの博登との遊園地。 今日の朝まで楽しみにして待ち続けていたのがまるで嘘のように思えた。 気付けば日も落ちかけ、耳が聞こえない夏々にとって夜の怖さは普通の人の倍に感じられる。 

暗くなって視界が悪くなってしまえば、流石に道しるべもなしには探して歩くことはできない。


―チリン。


もうこのまま会うことはできないのかもしれない。 そんな風に考えかけたその時、歩いていると、近くから鈴の音が聞こえてきた。 今の夏々にとっては唯一にして最大の希望が鈴の音なのだ。


―――ッ、あそこだ!


鈴はあっさりと見つかり、看板状のマップに張り付けられていた。 そこに意図があり、夏々に何か指示しているかのように思えた。


―――・・・ここへ行けば、何か分かるのかな?


鈴を取ろうとしたが場所が高く、固定されていたため取ることができなかった。 仕方なく鈴を放置して、その場所へ行こうと考える。 ここからそう遠くはない。 どころか、そこは――――


―――最初に、鈴を見つけた花畑。


もちろん、博登のことはよく探した場所だ。 だが見つかる気配すらなかった場所である。 

だがそれでも縋るものが何もないし、何かのメッセージに感じられる夏々は、疑うことなくそこに向けて足を動かしていた。


―――今行けば、もしかしたらお兄ちゃんが・・・。


合流できるように、示してくれているのかもしれない。 というより、そうとしか考えられなかった。 夏々は急いでそこへ向かう。 博登が移動してしまう前に。

花畑の中心、煉瓦造りの時計台にもたれ掛かるようにして、夏々の探し人はそこで静かに佇んでいた――――



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