音を頼りに⑨
もしかしたら先程の係員なら、博登の行く先を知っているのかもしれない。 そう考えたが、既に彼女の姿はなかった。 鈴を受け取ってしまったため、音で探すこともできない。
―――・・・ん?
次の音を求め歩いていると、真咲が急に立ち止まった。
「どうしたの?」
彼の目線の先には、家族らしき人たちがいた。 その中で40代程の男性が走り寄ってくるなり、真咲の頭に拳骨を落とした。
―――うわ、痛そう・・・。
涙目で何かを言い合っているが、夏々には聞こえない。 だがそれでも楽しそうに見えた。 父、母、その身体に隠れている多分女の子。 真咲は家族4人で来たのだろう。 同時に、寂しさも覚えた。
「よかったね、家族が見つかって」
真咲も迷子だったため、二人の利害が一致していただけに過ぎない。 家族が見つかってしまえば、あとは自分一人で何とかしなくてはいけなかった。
ここで初めて会っただけだというのに、目が潤みそうだった。
「私はもう、一人で大丈夫だから」
不安気に自分を見つめていた真咲にそう言うと、夏々は身を翻す。 だがその時、腕を掴んできたのは当然真咲だった。
『待ってて』
しばらくして戻ってきた彼の手には、携帯が握られている。 そこには『今日はありがとう。 夏々と出会えて楽しかった』と、書かれていた。
「こちらこそありがとう。 私も、真咲と会えて嬉しかったよ」
『もし迷子センターへ行くなら、俺が全て事情を説明するよ? ウチの親たちも、その方がいいって言っているし』
「ううん、平気。 分からないけど、もうすぐお兄ちゃんに会える気がするの」
根拠は全くない。 強がりなのか、真咲に気遣っているのかも自分ではよく分からなかった。 真咲は少し考えていた様子だったが、再び文字を打ち始める。
『確かに耳が聞こえないと、不便だし人と関わるのが怖いと思う』
「・・・?」
『でもみんなが全員、怖い人だけだとは思わないで。 夏々が思っているよりも、優しい人はたくさんいる。 寧ろ、この世界は優しい人の方が多い』
「・・・うん、そうだね。 真咲と出会って、知ることができた。 まだ怖い気持ちはあるけど、真咲のことを思い出して頑張ってみる」
そう言うと、彼は携帯を下ろし微笑んだ。 真咲はこれから、家族との時間。 もうお別れしなければならない。 だから、最後に一番伝えたかったことを言ってみた。
「・・・真咲の声、一度でもいいから聞いてみたかったな」
「ッ・・・」
真咲が何も言えなくなっていると、真咲の家族がやってきた。 どうやらもう帰るらしい。 夏々は挨拶と礼を言ってこの場を去ろうとしたが引き止められ、真咲の母がバッグから飴を二つ取り出した。
―――黄色いレモン飴。
些細な優しさが、とても嬉しく思えた。
『最後まで、一緒にいてあげられなくてごめん。 お兄さん、見つかるといいな』
それに力強く頷くと、真咲の家族と別れた。
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