音を頼りに⑦
「もう、いきなりあんなことをしちゃ駄目だよ」
『ぅ・・・。 確かに』
真咲は反省していた。 もしかすると、風船を割ると大きな音が鳴ると知らなかったのかもしれない。 自分も小さい頃に経験していなかったら、今も何故注目を集めたのか分からなかっただろう。
「でも、気持ちは嬉しかった。 鈴、ありがとう」
『あ、うん・・・』
次に鈴の音が聞こえてきたのは、一本の大きな木。 何故だか、枝に巻き付くように鈴が絡まっている。
―――あんなに高いところ、取れないよ・・・。
夏々は身長が低いわけではないが、それとは別にして高過ぎる。 木を登るなど以ての外。 聴覚がない夏々は積極的に運動をしてこなかったため、運動神経がいいとは言い難かった。
『あそこかぁー!』
真咲も幹を蹴り跳んでみたりしているが、届くはずもない。 これも周りに博登がいるわけでもないし、鈴にこだわる必要は本来なかった。
―――諦めようか。
―――・・・でも、それだと駄目な気がする。
諦めてしまえば、博登は見つからない。 そう思えた。 考えているうちに、真咲が傍にあった台を持ってくる。 それでもまだ届かない。
『仕方がない』
真咲はそう言うと、腰をかがめこちらを見上げた。 肩車、ここに乗れと言う意味なのだろう。
「だ、大丈夫・・・?」
『夏々は軽そうだから、多分。 でも素早く頼むよ』
恐怖はあったが肩に乗る。 そのまま台に上ったため大きく揺れかなり怖かったが、何とか鈴は取ることができた。
―――博登お兄ちゃんに肩車をしてもらったら、もっと高いのかな。
そう思うと、少し恋しくなった。 真咲も頼もしいし、有難く思ってはいるが、やはり博登は別格だ。
『やっぱり、それも聞こえないよなー』
「そうなんだ。 とにかく、ありがとうね」
『あ、あぁ』
結局、博登は見つかっていない。 手元に鈴だけが増え、焦りばかりが募る。
『次は?』
だが、真咲はどうやら今の状況を楽しんでいるようにも思えた。 それが心強かった。
―――真咲がいなかったら、鈴を一つも集められていないもんね。
―――真咲も話しかけてくれただけ。
―――また私が一人になった時・・・今度は誰かに、助けてもらわないといけないんだ。
真咲はこのテーマパークだけでの関係だ。 博登もいつも、一緒にいてくれるわけではない。 この先一人で何かを解決しなければならない時、誰かが助けてくれるとも限らない。
夏々の中で、何かが変わろうとしていた。
『観覧車に乗らない?』
真咲からの突然の提案だった。 落とさないよう内ポケットにチケットを入れていたため、乗ることはできる。
「上から探すっていうこと?」
『それもあるけど、折角テーマパークにいるっていうのもあるしさ』
確かに言われてみれば、目覚めてからずっと鈴を探していて折角の今日を楽しめていない。 何より優先すべきは博登と合流することだが、上から探すという名目ならありだ。
もしかしたら、博登も同じように考えるかもしれない。
―――迷子の案内をしても、私には聞こえないもんな。
博登は、夏々が真咲といることを知らない。 アナウンスをすれば見つけることはできるが、しても意味がないことをするはずがないのだ。
―――ただ・・・。
真咲は鈴を一緒に探してくれているし、名前も教えてくれた。 それでも密室で二人きり、数分か数十分か。 初対面の人とは話慣れていないため、一緒にいて会話が続くかも分からない。
―――・・・ううん、違う。
―――真咲は私を信用してくれている。
夏々はそう考え、観覧車に乗ることに決めた。 上から鈴の音が聞こえることはないが、テーマパークの全体図を見渡すのも必要だと思ったからだ。
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