音を頼りに⑥
『じゃあ、これでよしとして。 行こう!』
そう言うと、再び夏々の手を引いて歩き出す。
「あ、ちょっと待って」
『ん?』
「さっきの花壇へ戻りたい。 多分、鈴があると思うんだけど」
『鈴・・・?』
真咲は首をかしげながらも、花壇へと戻ってくれた。 だが、先程まで聞こえていたはずの鈴の音が聞こえない。
―――・・・あれ?
―――おかしいな。
思えば、音は聞こえていたが実際に鈴を見たわけではない。 鈴の音に関して言えば、機敏とも言える自分の耳。 ただ今の精神状態を考慮すると、幻聴の可能性も否定できなかった。
「ごめん、やっぱり何でもない」
『いいけど』
下げた頭を起こした時、今度こそ鈴の音が聞こえてきた。 今回は花壇の中からではないため、やはり先程のは聞き間違いだったのだろう。
「今度こそ鈴の音、聞こえたでしょ!?」
『いや?』
真咲は首を振るが、自分には現在進行形で鈴の音が聞こえている。 それを聴力の差ということにして、真咲の腕を引っ張った。 少々強引ではあったが、真咲は驚きながらも付いてきてくれる。
音が聞こえてくるのは、綺麗な水色のベンチの下からだった。 堂々と、というわけではないが下に吊るされ風に揺られて綺麗な音色を奏でている。 周囲を見渡したが、博登の姿はない。
『あの鈴がどうかしたの・・・?』
“鈴、鈴”と言っていたからか、真咲が尋ねかけてくる。 もっとも、夏々も答えなど出ていない。
「・・・あれ、大切なものだから」
そう言うと、真咲はベンチに座るおばさんに声をかけた。 何か二人で話しているが、どうせ聞き取れないし、聞こえたとしても耳から抜けていったことだろう。
鈴を回収した真咲は笑顔で手渡してくれたが、鈴を見つければ博登がいると思っていただけに、ショックを隠し切れなかった。
「あ、ありがとう・・・」
見覚えのある鈴だ。 特別な見た目に作られているわけではないが、見間違えるはずもない。
―――もしかして、このテーマパークで売っていたりする?
―――さっきの花壇のも、そうかもしれない。
それでも博登が鈴を持っているのは事実。 手掛かりは枝別れし探しにくくなってしまったが、鈴の音が聞こえたらそこへ行くのがおそらく最も近道だ。
―チリン。
「また聞こえた!」
再度、音の鳴る方へ行こうとしたが、真咲はその場に立ち止まっていた。
『鈴の音・・・?』
真咲は夏々の手から鈴を取ると、それを耳元で揺らした。 当然、夏々にはうるさいくらいの音が聞こえてくる。
『やっぱり聞こえない。 これ、本当に鳴ってるの?』
「あ、そっか。 真咲には聞こえないんだね。 耳の聞こえない私用に、作られたものだから」
『へぇ。 従兄が、その鈴を持っているっていうこと?』
「うん。 真っ暗闇の深海に、一筋の光が差すような感じ」
『ふぅん、例えはよく分からないけど。 まぁ、聞こえたら教えてくれ。 俺には聞こえないからさ・・・。 で、あっちから聞こえたんだよな?』
真咲が返してくれた鈴は、音が鳴らないようにハンカチで包みポケットにしまった。 二人導かれるよう音の鳴る場所を目指し、辿り着いたところにはたくさんの風船を持ったキャラクターがいる。
先程写真を撮ったのとは違って、ウサギのモチーフだ。
―――もしかして、風船の中に鈴が入っているの・・・?
位置とくぐもった音から、そうとしか考えられなかった。 そうなると、当然博登が風船の中にいるわけがない。 博登は小人ではないのだから。
「多分、あの風船の中から聞こえると思うんだけど・・・」
見れば、一つだけ浮力が弱いものがある。 間違いなくそこに入っているのだろうが、鈴単体を回収しても意味はない。
『それも、夏々の鈴?』
そう聞かれて首を捻った。 テーマパークに鈴が散らばっているのだとしたら、どう考えても自分や博登の鈴ではないのだ。
だが悩んでいるうちに、真咲はキャラクターに近付くと指を差して、その風船をもらっていた。
「やっぱり中に鈴がある・・・」
『よしきた!』
真咲はそう言うとポンと手を叩き、落ちていた石の欠片で風船を割ったのだ。 視線が集まったのは、大きな音が鳴ったからだろう。
『やべッ』
更に風船をくれたキャラクターが、非常に悲し気なポーズをしていた。 当然だ。 渡した瞬間に、割られてしまったのだから。 そして、夏々にはその心情が分かっていた。
「ごめんなさい! 風船、割っちゃって!」
大きく頭を下げていると、モフモフしたものが頭を撫でた。 顔を上げると、ウサギのキャラクターが指で輪を作っている。
―――・・・よかった、許してくれたみたい。
こうして手を振ってくれるキャラクターを背に、二人は移動を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます