音を頼りに④




夏々が目が覚めすと、そこは遊園地のベンチだった。 先程までスワンボートに乗っていたため、寝ている間に移動したということだ。

だが博登の傍にいる時は、常に聞こえていたはずの鈴の音が全く聞こえない。


「お兄ちゃ・・・。 あれ?」


隣にいるはずの博登の姿がない。 周りを見渡してみたが、それでも見つからなかった。


「トイレにでも行っているのかな」


“寝ている自分を置いてトイレへ行くことがあるかな”とも思ったが、それ以外に考えられない。 念のため携帯で連絡してみようかと思ったところで、一つの異変に気付く。


「え、携帯がない!?」


首から下げていたはずの携帯がなかった。 朝付けたお気に入りのカバーも当然ない。


―――嘘・・・。

―――どうしよう・・・。


見える距離にトイレはないが、そこら中に置いてあるパンフレットを見れば近場でどこにあるか分かるだろう。 ただ捜しに行くと、行き違いになってしまう可能性もある。 

自分を置いて長時間どこかへ行くはずがないと思った夏々は、博登の帰りを大人しく待つことにした。


だが――――待てども待てども、帰ってこない。 ベンチの上で体育座りをして30分。 いい加減待ちくたびれてしまった。 その時、俯いていた夏々に影が差す。


―――博登お兄ちゃん!


ようやく戻ってきたと嬉しく思ったのだが、顔を上げてみればそこにいたのは顔も知らない二人組の男だった。 年齢は博登よりも上に見え、清潔感を感じないその風貌に恐怖を感じる。

自分のことを指差しながら何かを話し笑っているのも、気持ちが悪かった。


―――え、何・・・。

―――誰・・・?


膝を抱えている腕に、力を込め身体を丸めた。 夏々は、知り合い以外と関わるのは苦痛で仕方なかった。 何を言っているのかも分からない彼らが、どうしようもなく怖い。

本当は逃げてしまいたかったが、博登が戻ってくることを考えるとそれもできなかった。 だが男たちの一人が、夏々に向かって突然手を伸ばす。


―――ッ、嫌・・・!


流石にもう博登がどうのこうのと言ってはいられない。 男の腕を振り払うと、悲鳴を上げて全力で走った。 行き交う人にぶつかるが、気にしていられない。 

流石にテーマパークで追いかけてくるようなことはなかったが、気付けば知らない場所へ来てしまっていた。 ジャングルのような木が茂り、空中ブランコが空を回転している。

子供向けゾーンということは何となく分かったが、パンフレットがない夏々には詳細な場所が分からない。


「どこ、ここ・・・。 お兄ちゃんを捜さなきゃ」


どこから来たかも分からず歩いていると、ふいに鈴の音が聞こえた。 夏々が聞き取れる音は、特殊に作られた鈴の音しかない。 それも、博登の鈴から鳴る音だ。


「あッ・・・」


―――お兄ちゃんの鈴の音!


音を頼りに、鈴の鳴る方へ目指していく。 ジャングルゾーンを抜け、現れたのは大きな花壇だった。 周りを見渡すも兄の姿はない。 なのに鈴の音だけが聞こえてくる。


―――どういうこと・・・?


どうやら鈴は、花壇の中にあるようだ。 ただ音は聞こえるものの、たくさんの花が咲き誇り見つけることができない。 流石に中へ入るのはどうかと思ったが、手掛かりは他にないのだ。 

そんな時、突然肩を叩かれた。


―――さっきの人たち!?


もしやと思い驚いて振り返ると、そこには同い年くらいの一人の少年が立っていた。



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