蜘蛛に食べられた

「あれ?」


夏の暑い日差しをもろに浴びて、私は目を覚ました。なぜか宙に浮いていた。


「なにこれ」


宙に浮いている、というよりは体中がなにかに貼り付けられていて、身動きがとれないという表現をしたほうがいいだろうか。例えるのなら、蜘蛛の糸? 蜘蛛の巣?


「ウソでしょ」


 精一杯張り付いている至るところを力いっぱい引っ張ってみても、剥がれる素振りが一切ない。目一杯引っ張っても、蜘蛛の糸ごと引っ張った挙げ句蜘蛛の糸の圧倒的な力に引き戻される。


「……これもしかして、詰んでない?」


 詰み。移動できない。動けない。真夏の直射日光。暑さによる脱水。なにより、少し遠くにいる巨大な蜘蛛。


「蜘蛛ってあんなに大きくないよね」


 蜘蛛がこちらに身体を向けて、少しずつゆっくりと向かってくる。八本もある足を動かし、確実に。


「食べられる、とか」


 暑さによる汗なのか、これから食べられるという汗なのか、とにかく汗がダラダラと流れ出した。そんな中、蜘蛛は着実にこちらに歩を進め、気づけばすぐ近くまで来ていた。


「これ、まじでやばいやつ」


 蜘蛛は足をゆっくりと動かして、ついに私の頭上にまで来てしまった。私の頭を丸呑みにしてしまいそうな口は、私を食べたがっているのか頻繁に動き続けている。


「逃げられ……ないか」


 頭と口調は異様に冷静だった。もう逃げられないことを悟っているかのように。しかし、それに反抗するように、体中からは汗がだくだくと流れ続け、必死に蜘蛛の巣から逃れようと身体のあちこちを力いっぱい動かし続ける。


蜘蛛があんぐりと口を開けた。私の視界に蜘蛛の口が広がっていく。


「あ、はは」


 わけのわからないままに、私の人生を終りを迎えるのだろうか。

 目覚めて数分。生きてきて二十数年。死がこんなあっさりと迎えに来るなんて。

 もっといろいろやりたいことあったのにな。

 そんな事を考えながら、私は蜘蛛に美味しく食べられていったのだった。


 来世では、蜘蛛にでもなって人を食べたいな。

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