掌編4 シュウエンループ

 あと一日で世界が終わる。今も変わらず世界はまわって、外では鳥がさえずってさえいる。テレビを付けても、世界が終わるなんて一文字たりとも出てはいない。じゃあ、なんで世界が終わると僕はわかっているのか。


 もう、何回もこの世界の終わりを経験しているからだ。


 よくある中二病とかじゃない。大真面目に、事実だ。同じ季節を、同じ年で何回も過ごしてきた。もう、百回は優に超えているはずだ。なのに、未だ世界の終焉しゅうえんを阻止できていない。この大学三年になる以前にも、一度だけ世界の終焉ループにとらわれたことがあった。しかし、そっちは十回そこらで回避できたのだ。その時の終焉の原因が、一人の少女の暴走だったから。その少女を説得することができたから、回避できた。

 だけど、二回目の今回は、その世界が終わる原因すら把握できていない。


「……いつになったら終わるんだろうなこれ」


 もう何も感じられない。いや、感じることすらおっくうになってきた。九十×百で、九千日。二十何年、僕は同じ時間を過ごしてきた。これだけ膨大な時間を過ごしても、いまだ世界が終わる原因すら把握できていない。

 何もかも諦めた、世界が終わってもまた特定のポイントからリスタートできる。何回も、何回でも。だから、今回ももういいやと半ば思っていた。

 今僕は、ぼーっとベッドに寝そべったまま、 ただ天井を眺めていた。


「もう、死んじまおうか」


 何回もつぶやいた馴染み深いフレーズを、ぼそりとつぶやく。死んでしまえばどうなるかわからない。世界が終焉とともに戻る、というのは、何回も経験していた。しかし、死んで過去に戻るのかどうか、それはわからない。だから、不用意に死んでしまうわけにもいかない。


「でも、約束したからな」


 一度目の終焉ループの原因となった少女。その少女は今、普通の人間として高校生となっている。その少女と、一つだけ大きな約束をした。


「お互い、このくそみたいな世界を最後まで生き抜いてやろうって」


 今の僕をつなぎとめているのは、ただこの約束一つだ。

 世界が終わってしまえば、少女も死んでしまう。僕も、終焉ループにとらわれてしまう。だったら、終焉ループから抜け出すほかない。


「じゃ、最後のリサーチと行きますか」


 体を起こしてベッドから降りる。このループを終わらせるための一手を、見つけに。



 また、世界の終焉がやってくる。何回経験していても、この瞬間だけはとてつもなく怖い。世界が一瞬で真っ白になって、気づいた時には終焉ループの最初の日に戻っている。だけど、今回なんとなくわかったのは。


 次のループが、最後のループになるはずということだ。


 次を逃せば、世界は終焉を迎えたまま、二度と元に戻ることはないだろう。僕はもう二度と、この世界の終焉を回避することができなくなってしまうということだ。少女との約束も、果たせなくなってしまう。

 アパートの自室のベッドに寝そべりながら、スマホで時間を確認しているが、最後のループになるというのを、直感している。


「次こそは回避しないとな……はは」


 そんなことができるのか。今の今まで、原因すらつかめてなかったくせに。だけど、今回のループで、一手だけ原因に近づけた。


 だから、


「……もう、あとはない」


 僕は誓うんだ。


「あの子との約束を、果たすために」


 また、終焉ループが始まる。世界が真っ白になり、気づけば最初の日に戻っている。さあ、最後のループの、始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る