第64話 身を削る思い
変なおじさんを全力でやり切った僕は膝に手を置き肩で息をしていた。
それはなぜか?精神的ダメージが大きかったからだ。
芸人と呼ばれる人が人から笑われるのは《笑わせている》という認識の元に芸を披露しているから可能なのであって、ただの一般人が笑われているのは芸としての部分では無く恥さらしやバカにされているパターンが多い。
それは誰かの真似や芸を盗んで披露した場合も然りである。ライネルはその中でもレジェンド級の芸を真似て実行した。それはある意味自殺行為でその完成された芸に似せる事の難しさやコミカルな動きを実行する羞恥心などに疑心暗鬼になりながら何度も心を強打され続ける事になる。
──まぁ何が言いたいかというなら
単純に恥ずかしかったのだ。
今までお笑い芸人を目指していた訳でもないただの一般人があの有名な芸をやる。
その行為に心が折れたのだ。
しかも石像は一切の笑いを浮かべることも無く王の試練は終了してしまった事もその原因の一つでもある。
「……絶鬼……龍鬼……。ごめん。」
「ライネル様。謝らないでください。今まで何人もの鬼が挑戦し断念した高難度の試練なのです。何を恥ず事がありましょうか!」
「そうですぞ!ライネル王。我々はもう既にライネル様が王となる事に微塵も懸念を抱いておりません!寧ろ皆が望んでいる結果なのです。あとはライネル王が王の試練をクリアする事を心待ちにしている……」
「絶鬼様!その言い方ではライネル様にプレッシャーを与えてしまいます!私はライネル様にはライネル様のやり方で王になって頂きたいのです。寧ろ王の試練などライネル様の何が分かると言うのでしょうか!始祖たる天鬼様のお力すら使える最強の鬼でいらっしゃるのに……」
「……うん。うん。……絶鬼も龍鬼もありがとう。僕頑張るよ。合格出来るまで何度も挑戦して見せるさ!」
僕は膝に置いた手をぐっと押し顔を上げた。顔を上げた拍子に目頭に溜まっていた涙が頬を伝う。そしてそれは黒子へと一直線に向かって行き……
「「あっ……」」
絶鬼と龍鬼の声がハモる。
「えっ!?」
僕がポカーンと口を開けるとそのまま涙に乗せられた黒子……いや。巨大な鼻くそが口の中にホールインワンしたのだ。
「……ぷぷ……あーはっはっはっ!ラ、ライネル様……鼻くそが……口に………っ!」
必死に声を殺しているがあからさまに龍鬼は僕を見て笑っている。
笑う龍鬼にイラッとした僕は口に入った鼻くそをプッと龍鬼に飛ばした。
「うわぁ!!ライネル様!やめてくださいよ!」
龍鬼は咄嗟に横に移動し避けたが避けた先には松明が置かれており、ぶつかった拍子に龍鬼の頭目掛けて松明の炎が落ちてくる。
「うわぁ!!!あちっ!あち!絶鬼様助けて!」
「……ぷぷ………あははははははははは!もぅ我慢出来んわい!」
絶鬼の声ではない笑い声が木霊する。
それは石像の声……でもなく天鬼の声でも無かった。
第三者の声。それはとんでもない所から発せられた物だった。
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