第63話 鬼にはユーモア
スキルの制限解除をしたライネルは桁違いの力を手に入れた。そして不本意ながらも王となるべく王の試練へと向かう。
はたして王の試練はどのようなものなのか?
「ねぇ……どこまで歩けばいいの?」
賢者の渓谷を過ぎて更に歩く。先の見えない移動にライネルは疲れていた。
「ライネル王。あそこに見える山の麓です。」
「……あ。あれかぁ……何か見覚えあるけど……気の所為だよね?」
「まぁ强そうとも言えません。全種族の大陸にあの山はあるのです。」
「えっ!?どういう事?」
「別名開闢の山と呼ばれる神鳴山はこの世界に存在する全ての生みの親。全ての始祖と言えるあの山を取り囲む様に大陸が出来ているからです。」
それから間もなく僕達は神鳴山に辿り着いた。そして
空白の大地側にある横穴の中に入っていく。
──何か懐かしい感じがするな……
どうやら王の試練は神鳴山で全種族共通で行われる様である。しかし内容や場所は種族によって異なるらしい。
人族ならば頭を使った試練、獣族ならば体を使った試練と言った具合だ。
そして鬼の試練が1番キツく難易度も高いのだそうだ。知力・体力・技術・精神を織り交ぜた厳しい試練。それが王の試練だ。
洞窟の中に入るとそこには祭壇があるのみだった。
──よく来たな……王の素質を持つ者よ
「だ、誰!?」
「王の試練の立会人です。彼らは一切の応答をすることはありません。」
うむ……予めプログラムされた人格?といった所か。
──ただいまより王の試練を始める
「うん!どこからでもかかってこい!」
僕は気合いを入れて大きな声をあげ自らを鼓舞させた。
現れたのは一体の石像だ。身長2m程のアフロヘアーにグラサンスーツ姿。いかにも司会者といった感じでマイクを持っている。
「サァサァサァサァ。ヤッテマイリマシタ。ミナサンオマチカネ。イザ……………ショーーーーーーターーーイム!」
は……?何このテンション。
「デハ……オダイハコチラ!」
アフロの石像はいつの間にか取り出したプラカードを持ってずいっとライネルに見せつける。
「シンキングタイムスターティン!」
ズビシッと人差し指を僕に向け開始の宣言をする石像。しかし僕は唖然としていた。
だって……これって……どういう事?
「ラ、ライネル様?大丈夫ですか?くっ……流石……王の試練……手強い……」
いやいや……と言うかね?これ本当に王の試練なの?王の素質とか一切関係ない気がするけども?
石像の示したプラカードの内容はこうであった。
──我を30分以内に笑わせてみよ
なんだよこれ。どうやって笑わせればいいのさ?擽る?一発芸?それともコントでもやれって?
……うーん……。確かにこれは1人では辛いかも知れないな。一発ギャグ、アメリカンジョークなど笑わせられる引き出しはあってもコントを1人でやるのは無理だ。
よし。まずは小手調べだな。
「布団が……ふっとんだ!」
────シーン。
矢張りか。さすが王の試練だな。皆ピクリとも笑ってな……
「……ぷぷ……ぷぷぷ……あはははははははは!布団が吹っ飛ぶ……あはははははは!」
いや。1人いたようだ。低レベルな駄洒落で笑う笑い上戸の奴が。
僕の真後ろ。いや。後頭部に口を持つ天鬼だ。
「あははは!腹が苦しい……ん?な、何故じゃ?なぜ皆は笑っておらぬのじゃ?布団が吹っ飛んだんじゃぞ?あはははははは!」
天鬼……もういいから……時間も無いし傷を抉る様な発言はやめてください。
しかし駄洒落がダメとなると……僕は前前世で知り得ていたありとあらゆる一発芸や下ネタをやった。だがそれも尽く失敗に終わる。
あと……あって30秒くらいか……
しかしそれにしても鬼に求められるもの。それがユーモアだったなんて。
王とはその国の象徴でもある。
人族ならば1番賢き者。獣族ならば1番猛き者。そして…鬼族ならば1番楽しきものでなければならぬのだ。
恐ろしい風貌の鬼はユーモアと強面のギャップで更に人々を笑わせ導く。何ともおかしな話だが……ん?ギャップか……よし。最後にダメ元であのキャラを真似て……
僕は石像に背を向けると鼻をほじくる。そしてネリネリネリネリ。
そしてねりあがった鼻くそでホクロを作り頬に貼り付けた。そして……僕はくるっと翻し石像を向く。
「──変なおじさんだから変なおじさん!……だっふんだ!」
体の前で腕をクルクルと回しながらコミカルなダンスを踊る。そして頬には擬似黒子ならぬ巨大な鼻くそが貼り付けられている。
そう──僕はあの伝説のコメディアン故人シムけん様の伝家の宝刀を再現しようと考えたのだ。
さぁ王の試練よ。いざ尋常に勝負だ!
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