第60話 もうひとつの理由

1つ目の理由を聞きライネルが天鬼の第7の眷属だった事が判明した。そして天鬼之与法と言うスキルについても。


しかしライネルはまだ腑に落ちない点が幾つもあった。強いだけなら王にならなくても戦士として生きることも可能なはずだ。しかし天鬼は絶対に王にならなければいけないと言う。それは何故か?それは2つ目の理由が影響しているらしいのだ。


しかし天鬼はその2つ目の理由について語らず洞窟の中へ入っていく様に促した。


「ライネルよ。2つ目の理由は口で説明するより行動した方が分かりやすいのじゃ。まずは洞窟におる皆と話をしようではないか。」


「まぁ天鬼がそう言うなら……。」


ライネルは渋々ながら洞窟に入っていく。


「ひいぃぃぃぃぃ!」「こ、来ないでぇぇぇぇ!」


矢張り天鬼は恐れられていた。


「あはは……これはやりすぎたみたいだな。皆の者。すまぬ。我がやった事は許せないかもしれぬがどうか……分かっては貰えぬだろうか。」


「………何を分かれというのですか?」


妙齢の鬼が恐る恐る声を発した。


「我は鬼族を護りたかっただけじゃ。腹を痛めて産んだ我がそなたらを理由無く痛みつけるわけがなかろう?」


「え?どういうことですか?」


洞窟の中の鬼たちはゴクリと生唾を飲み込み天鬼の発言に注視する。


「それは……このままならば空白の大地はあと数年で滅びるからなのじゃ。」


「「「「「えぇっ!?」」」」」


全員の声がハモった。


「まぁにわかには信じがたいとは思うがな。神は此度の眷属排出を些か不満に思っておるようじゃ。数千年ぶりに突然我が前に現れたと思ったら神託を下しおった。」


──天鬼姫よ。そなたは役目を終えた。最後の眷属が成人し一族を率いた時──空白の大地は大陸とは分断され鬼の楽園となるだろう。だがもし眷属が一族を統治せぬ場合──大地は崩壊し世界の闇に飲み込まれ鬼族は滅亡する。


「……とな。神は眷属7番目のライネルを王に置くことを条件に鬼の大地の存続を赦し、大陸から分かれさせ独立した島とする方針のようなのじゃ。これには我も困ってしもうての。せめて大地が残る方法を取ろうとライネルを乗っ取る計画をしたのじゃ。」


「……そうだったのですね?」


ライネルは徐々に洞窟の中深くに入っていく。鬼たちはジリジリと迫るライネルに後ずさっていたが壁に突き当たり顔面蒼白となっていく。


「まぁそう恐れるな。もうそなたらに手を出すことは無い。ライネルと我は一心同体となったのじゃ。その証拠に……ほれ。」


天鬼は何かを鬼達の前に放出した。


それは……1つの石だった。


「……これは……。」


「そうじゃ鬼核石きっかくせきじゃ。」


「なんと……大きいのじゃ……それに……なんと神々しく美しい鬼核石じゃ……」


鬼族の中でも最も長生きである長老亜鬼が前にずいっと出ると声を上げた。


「鬼核石ってなに?」


「鬼の心臓とも呼ばれる胆力の源じゃ。鬼は死すると鬼核石のみを残し消滅する。その鬼核石は代々受け継がれ親から子へ。子から孫へと継承される。途中で途絶えた鬼核石は徐々に小さくなりその一族は滅亡するのじゃ。しかしそれは語弊での。本当の意味は違うのじゃ。ちなみに途絶えたと思われている鬼核石は我が回収し蓄えておる。じゃから鬼族全体の鬼核石の量は変わりゃあせんし、我の鬼核石は巨大なのじゃ。ま、そもそも全ての鬼の核石は我の所有物じゃがな。」


「うーん……難しくて良くわかんないや。」


「まぁ簡単に言えば鬼の一族を作る役割は本来ならば7人の眷属が行うはずじゃった。しかし生き残ったのは淵鬼のみ。これでは子を成すこともできぬし子孫繁栄とはならぬ。じゃから我が鬼力を使って鬼の一族を作り上げたのじゃ。」


「えっ!?じゃあこの鬼たちって……」


「そうじゃ全てが我の子供という事になる。」


天鬼は鬼族を丸々創造するという大それた事をやってのけていたのだった。

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